忠告
僕は妹が泣き疲れて眠ってしまった後、昼ごはんを作ろうとした。
すると、座敷童子の『座敷 童子』がそれを止めた。
「何をするつもりですか?」
「何って、昼ごはんを作るんだよ」
彼女は僕が右に行こうとすると、それに合わせて移動し、左に行こうとするとそれに合わせて移動した。
「退いてくれよ、頼むから」
「実の妹に自分を否定されただけで失神するような人を台所に立たせるわけにはいきません」
人が忘れようとしていたことをほじくり返すなよ。
「そうか。けど、今は体を動かしていないと気が済まないんだ」
「でしたら、食器でも並べていてください」
それはダメだ! なぜなら、お前の料理の方がおいしいから僕はもう作らなくてもいいと言われるかもしれないからだ!!
「嫌だね。誰が何と言おうと、今日の昼ごはんは僕が作るんだ」
「頑固者! 少しは自分の体のことを考えてください! 昨日の戦いであなたの体はとても不安定になっているのですよ? なぜそれに気づかないんですか!」
不安定?
あー、鬼の力を久々に長時間使ったせいで鬼の力に支配されかけてたから心配してくれているのか。
案外、他人思いなんだな。
「それは分かってるよ。けど、それとこれとは話は別だ。家事は僕の生活の一部みたいなものなんだ。やらないと体が疼くくらいに」
「……分かりました。もう何も言いません。忠告はしましたからね」
彼女はそう言うと、僕の右手の甲に『守』という字を書いた。
それが何を意味するのかはよく分からなかった。
しかし、その直後、僕の体は妙に軽くなった。
不思議だ。
こんなことは今までなかったのに。
もしかして、これは童子の力……なのかな?
僕が彼女にそれを訊ねようとした時にはもう彼女はこの場にいなかった。
やれやれ、優しいのか、辛口なのかよく分からないな。
僕は心の中でそう呟くと、今日の昼ごはんを作り始めた。