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入室

 トランプ式王様ゲーム開始!!


「スペードの三!!」


「ハートの二ですね」


 生徒会長の『飛美濃ひみの さとり』が引いたカードの方が雅人まさとの引いたカードより数字が大きかったため、さとりは王様になった。


「うーん、どうしようかなー。じゃあ、私を膝の上に乗せてもらおうかな」


「え? いや、そんなことされたら……」


 僕は口を手でふさいだ。

 危ない、危ない。あやうく悟られてしまうところだった。


「拒否したいなら別にいいよー。でも、その時は君の負けだよー?」


「だ、大丈夫です。できます。会長、どうぞお座りください」


 会長は満足そうな笑みを浮かべながら、僕の膝の上に座った。

 幼児体型であろうと性別は女。

 故に彼女の肌のぬくもりがじんわりと伝わり、彼の頭の中をピンク色に染めていく。


「んー? どうしたのー? まさか、こんな幼児体型の私に欲情したのー? ねえ、どうなのー? ねえねえ」


「そ、そんなことありませんよ。次行きましょう、次」


 会長は「はいはい」と言いながら、僕の脇腹をんだ。

 少し……いや、かなりくすぐったかったが、変な声が出ないように我慢した。


「ダイヤのエース!!」


「クローバーの五です」


 雅人まさとの勝ち。

 つまり、今度は雅人まさとが王様になったのである。


「僕が王様ですね」


「あんまりエッチな命令はしちゃダメだよ? お互い困るから」


 しませんよ。まったく、この人は僕をなんだと思ってるんだ?

 さて、何にしようかな。


「うーん……では、僕の膝から下りてください」


「えー、なんでー?」


 なんでって。色々と困るからですよ。そう、色々と。


「ふむふむ。つまり、君は私で欲情しそうだから、離れてほしいということだね」


「ち、違いますよ! あー! もうー! 僕の心を読まないでくださいよー!」


 気を抜くと忘れるなー。

 まったく、厄介な力だ。


「可愛い後輩の頼みなら仕方ないねー。はい、下りたよ。これでいいかな?」


「え? あっ、はい、ありがとうございます」


 自分の椅子に座った会長はニコニコ笑っている。

 いったい何がおかしいんだ?


「じゃあ、次行くよー! ハートの十!!」


「スペードの九です」


 会長はニヤリと笑う。

 いったいどんな命令をするつもりなんだ?


雅人まさとくん」


「はい、何ですか?」


 会長は僕の目の前までやってくると、手の甲を差し出した。


ひざまずけ。そして、私の手の甲にキスをするんだ」


「か、会長、それって……」


 敬愛や信頼という意味ではなく、会長に忠誠をちかえということか?

 そ、そんなことできない。できるわけがない。

 だって、僕がこの世で一番大切な存在は妹の夏樹なつきなのだから。


「どうしたの? まさか、できないの? だったら、私の勝ちだね」


「ひ、卑怯ですよ! 僕が妹のことを一番大事に思っていることを知ってて言いましたよね!」


 会長は僕の膝の上に飛び乗ると、僕の胸に人差し指でハートマークをき始めた。


「私は君が欲しいんだ。君の前でならの私でいられるし、君を誰よりも愛せる自信がある。欲しいものがあるなら、なんでも買ってあげられるし、君の中にある鬼の力だってなんとかしてあげられるよ。さぁ、どうする?」


「や、やめてください! 僕は何もいりません! 妹さえいてくれれば、僕はそれで!」


 会長は僕の耳元でこうささやく。


「君の決断が妹さんの生死に関わるかもしれないのに?」


「あ、あなたはいったい何なんですか? 僕をどうしたいんですか?」


 会長は冷たい視線を僕に向ける。

 どうしてそんな怖い顔するんですか?


「今の君にそれを話すことはできない。さぁ、早く私に忠誠を誓え」


「で、できません! 僕は妹を裏切ってまで、あなたに忠誠を誓うことはできません!!」


 その直後、生徒会室の扉が外から蹴破られた。


「私のお兄ちゃんに何してるの? 絶壁ロリ」


「さて、何だろうね。でも、君のような重度のブラコン妹に教えるつもりはないよ」


 黒い長髪をなびかせながら入室してきたのは僕の実の妹である夏樹なつきだった。

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