ドーナツ
昼休み、雅人は生徒会室で生徒会長の『飛美濃 覚』とババ抜きをしていた。
「会長、負けを認めてください」
「ヤダ!」
しかし、手札が二枚になっている会長は雅人がババではない方のカードを選んだ瞬間、負けを認めたくないが故にそのカードをギュッと握っている。
「では、こうしましょう。今回は僕の負けでいいです。でも、次のドーナツではちゃんと先輩らしいところを見せてください」
「あっ、うん、いいよー。じゃあ、カードを集めよう」
切り替え早いな……。
もうシャッフルしてる……。
さっきまでのは演技だったのかな?
いや、でも女の子を泣かせてまで勝ちたくはないからな……。
彼は歯と歯の間に食べカスが挟まった時のような気分になった。
「あっ、でも、僕がドーナツで勝ったら僕が生徒会に入る件は無しになりますからね」
「うん、いいよー。えっと、もう初めてもいいかなー? いいよねー? じゃあ、最初は私からねー」
とことんマイペースだな……。
まあ、いいけど。
「会長はドーナツのルール、分かりますか?」
「うん、知ってるよー。同じマークが出たら今まで置いたカードを手札にしないといけないやつでしょ?」
カードをドーナツ型に並べた後に……が抜けていますよ。
「まあ、だいたいそんな感じです。あっ、そういえば、ババって入れましたか?」
「うん、入れたよー」
それを置いた後だと、一回はどんなカードを置いてもセーフになるんですが……。
まあ、いいか。
「分かりました。では、次は僕の番ですね」
「あっ、雅人くんアウトー! デコピン一回だねー」
は? そんなルールありませんけど。
「僕は別にいいですけど、会長の時はどうしたらいいんですか?」
「うーん、そうだねー。じゃあ、私の時は頭撫でてー」
それ、ペナルティになってないですよ。
「分かりました。まあ、そんなすぐには……」
「あっ! 私、アウトー! 雅人くん! 頭撫でてー!」
この人、どこにどのカードがあるのか知ってるんじゃないか?
うーん、まあ、いいか。
「えっと、じゃあ、失礼します」
「んふふー♪」
会長の髪、サラサラしてるな。
やっぱり会長も女の子なんですね。
「ま、雅人くん、あんまり撫でられると恥ずかしいよー」
「あっ、すみません。次からは気をつけます」
会長も照れたりするんだな。
彼は右手に残る微かな温もりを感じながら、ゲームを続けた。




