賽の河原
雅人は生徒会長と一緒にトランプタワーを作ることになった。
「あっ、そうだ。一段目は何個にします?」
「え? あー、そうだねー。じゃあ、四個にしようかー」
四個か。
せいぜい三個くらいだと思ってたけど、会長は作ったことあるのかな?
「作ったことはないねー。でも、君となら大丈夫な気がしてね」
「そ、そうなんですか?」
しまった。この人が覚だってことを忘れてた。
ん? もしかして今のも聞かれて……。
僕が会長の方に目を向けると、会長はニッコリ笑った。
えっと、これは聞こえてたのか? それとも聞こえてないのか? どっちだ?
彼が混乱している様を見ながら、彼女はクスクス笑っている。
「じゃあ、まずは私から始めるよ。……えいっ!」
「お、おー! うまいですね、会長」
彼が拍手をすると会長が作った小さなトランプタワーがポテっと倒れた。
会長は苦笑を浮かべながら、僕に顔を近づける。
「まーさーとーくーん。次からは気をつけてね?」
「は、はい、気をつけます。すみませんでした」
今のは僕が悪いのか?
まあ、僕が拍手したせいで気流が変化して会長が作った小さなトランプを倒してしまったのは事実だからな。
いや、でも、そう簡単に倒れるものなのか?
うーん、まあ、いいや。
「えっと、次は僕の番ですね。……よっと」
「へくちっ!!」
あっ。
「ご、ごめんねー、なんか鼻がムズムズしちゃってさー。いやあ、まったく、最近寒くなってきたねー」
「まだ五月になったばかりですよ。まあ、季節の変わり目は体調を崩しやすいですから、気をつけてくださいね」
彼女はうんうんと頷く。
わざと……じゃないよな?
彼女はニコニコ笑っている。
うーん、考えすぎかな?
僕はそれ以上深く考えないようにした。
「よし、できたー。雅人くん、慎重にねー」
「はい、任せてください」
一段目の二個目を作ろうと僕がカードを二枚持ち、会長の作った小さなトランプタワーの横にもう一つそれと同じものを作ろうと意識を集中させる。
すると、会長が耳元でこう囁いた。
「雅人くん、後ろから抱きしめてもいい?」
「ダ、ダメです! 今、集中してるんですから! ……あっ」
僕の手が会長の作った小さなトランプタワーに当たってしまった。
また一からやり直しだ。
「あーらら、まるで賽の河原だねー」
「会長、今のはそれ以上に酷いですよ。不意打ちは良くないと思います」
彼女はその場でクルッと回転すると、舌をチロッと出した。
この人は僕のことをバカにしているのか?
「雅人くん、男の子はどんな時でも冷静でないと命がいくつあっても足りないよー」
「そ、そんなの無理ですよ。あんなことされたら誰だって」
彼女は僕の顔をじっと見つめている。
まるで何かを探っているかのように。
「雅人くんって、意外とピュアなんだね」
「え? そ、そうですかねー」
彼女はクスクスと笑い始める。
トランプタワーはもういいのかな?




