遠回り
昼休み。
「お兄ちゃーん! 一緒に食べよー! ……って、なんで泥棒猫がお兄ちゃんと一緒に食べてるの? ねえ、なんで?」
「なんでって、これが私たちの日常だよ。ねえ? 雅人」
おい、そこで俺に振るな。
面倒なことになるから!
「ま、まあ、否定はしない」
「そ、そんな……! け、けど、私はお兄ちゃんの実の妹! 妹の特権をフルに活用させてもらうよ!」
いや、妹の特権ってなんだよ。
「おー、いいねー。私はいつでもいいよー」
「うるさい! 泥棒猫! お兄ちゃんから離れろ!」
ダメだ。どうやってもこの二人はケンカを始めてしまう。
これは犬猿の仲というやつか?
それとも……。
「お兄ちゃん!」
「は、はい!」
夏樹は僕の膝の上に座る。
近い! 近い! 顔が近いぞ! 夏樹!
「お兄ちゃんは私と一緒に食べたいよね?」
「え? あー、まあ、そうだな」
夏樹は座敷童子の童子が作ってくれた弁当を開ける。
夏樹はその中にあった卵焼きを箸で掴む。
ん? この流れはもしかして。
「はい、お兄ちゃん。あーんして」
「くっ! いきなり実妹のあーんを使ってくるとは! なかなかやるわね、夏樹ちゃん」
えっと、元ネタが何なのかさっぱり分かりません。
誰か知ってたら教えてください。
「でも! それくらいじゃ私は負けないよ! 雅人!」
「お、おう、なんだ?」
羅々は僕の背後に回ると後ろからギュッと抱きしめた。
「ちょ、ちょっと! 幼馴染の抱擁はズルいよ!」
「甘い! 私にはそれプラス、柔らかクッションがあるから威力は通常の四倍だよ!」
いや、だから、これはいったい何の戦いなんだ?
誰が教えてくれ。
「なっ! そ、そっちがその気なら、私にも考えがあるよ! くらえー! 首筋にキス!!」
「なら、私は頭皮マッサージスペシャルダイナマイト!」
いや、あの……。
「ギャラクシーマテリアルブースト!」
「ディメンションサザンクロスプロモーション!」
え、えーっと。
「エターナルトランスフィンガー!」
「インフィニティドミネイトミックス!」
に、逃げよう。
これは一度、逃げないと死んでしまう。
彼がその場から離脱しようとすると、二人は彼をロックオンした。
「お兄ちゃん、どこ行くの?」
「雅人ー、まさか逃げようとしてないよねー?」
いや、あの……。
すまん!!
彼はその場から離脱した。
どこに逃げる? 屋上……保健室……男子トイレ……あっ、そうだ生徒会室に行こう!
きっと会長なら事情を理解してくれるだろう。
『待てー!!』
「そう言われて待つやつがいるかー!!」
彼は二人が生徒会室までついてこられないように、できるだけ遠回りした。
「……失礼します! 会長! しばらく匿ってください!」
「ああ、いいぞ。好きなだけいるといい」
よかった、これでしばらく休めるな。
彼は息を整えながら、椅子にドカッと座った。




