五月一日
五月一日。朝六時。晴れ。
「お兄ちゃーん! 朝だよー!」
「……え? あー、もう朝か……って、お前! なんて格好してるんだよ!」
妹の夏樹は下着姿で僕に抱きついていた。いくら兄妹でもベッドの上でそんな格好をしたら、お兄ちゃんの体の一部が元気になってしまう可能性が高まる。
「えー、別にいいじゃん。そ・れ・よ・り……私の肌の感触はどう? 気持ちいい?」
「いや、それはもうスベスベしてて柔らかくて、ほんのりあったかいから本当はずっとこのまま……って、そうじゃなくてだな!」
部屋の扉がバンと開かれる。
いつも真顔の座敷童子の童子が入室。
彼女はこちらに歩み寄ると、僕の襟首を掴んだ。
「これはいったいなんですか? 朝からイチャついてないと死ぬんですか? この無自覚シスコン野郎」
「こ、これは誤解だ! なあ? 夏樹」
夏樹はベッドの上に女の子座りで座る。
彼女は口元を片手で隠しながら、目を潤ませる。
「ひどいよ、お兄ちゃん。昨日はあんなに激しく私を求めてたくせに……。あれは遊びだったの?」
「ほう、ついに手を出したんですね。実の妹に。というか、初めてなのに激しくしたんですか? 鬼畜ですね、クズですね、カスですね、ゴミ以下ですね」
あははは、お兄ちゃんを困らせるのは楽しいなー。
冗談というのは分かっていますが、たまには弄るのもいいですね。
「な、何なんだよ、お前ら。僕のこと、嫌いなのか?」
「何言ってるの? 大好きだよ。ねえ? 童子ちゃん」
なぜ、そこで私に振るのですか?
「そ、そうですね。少なくとも嫌いではありませんね」
「そ、そうなのか? じゃあ、証拠を見せてくれよ」
しょ、証拠? 証拠、ですか。
い、いったいどうすれば。
「うん、分かったー! はい、ギュー!!」
「あー、なるほど。そうすればいいのですね」
二人とも僕に抱きついてくる。
あっ、ちょ、関節を押さえるな! 動けなくなるから!
「あっ! 二人ともずるーい! 私も! 私もー!」
ひょっこり現れたのは家出中の白猫だった。
なんで朝からこんなことになったんだ?
「おはよう、ダーリン。おはようのペロペロしてあげるね」
「え? いや、別にいらな……」
白猫はザラザラしている舌で彼の首筋を舐め始めた。少し痛い。だが、気持ち悪くはない。
そんな不思議な感触が彼を包み込んでいく。
「あっ、それ私もやるー!」
「では、私も」
朝っぱらから盛っている。
実にけしからん。
だが、彼にはこれくらいがちょうどいいのかもしれない。
人と鬼。二つの要素を併せ持っているのだから。




