休日の朝
今日は休日。
しかし、僕のやることは学校に行かないということ以外は何も変わらない。
「おーい、夏樹ー。起きてるかー?」
僕が妹の部屋の前でそう言うと、何の応答もなかった。
何かあったのかと思った僕はすぐに妹の部屋に入った。
「おい! 夏樹! 大丈夫か!!」
僕が妹の体を揺すると、妹は黒い長髪を僕の体に巻き付けた。
「お、おい、夏樹。起きてるのか? それとも寝てるのか?」
僕がそう訊ねると、妹は僕に手を伸ばした。
「お兄ちゃーん……どこー?」
僕は妹の手をギュッと握った。
昨日、僕は鉄鼠と戦った。
その時、僕は暴走しかけた。
半ば暴走していたと言ってもいい。
とにかくあのまま戦い続けていたら、僕は鬼の力に支配されていたかもしれない。
それを阻止してくれたのが夏樹だった。
どうやって僕のところまで来たのかは教えてくれなかったが、僕を正気に戻してくれた。
正直、感謝しても仕切れない。
「夏樹。僕はここにいるぞ」
「わーい……お兄ちゃんだー……」
僕が妹に近づくと、妹は僕の背中に手を回した。
「夏樹。もう朝だぞ。朝ごはん、食べなくていいのか?」
「……食べるー」
食べるのか……。
「よし、なら、そろそろ起きろ」
僕が妹の肩を軽く叩くと、妹はようやく目を開けた。
「はーい……」
妹は僕から離れると、大きく背伸びをした。
そのあと、あくびをしながら、寝ぼけ眼を手で擦った。
どうやら、まだ半醒半睡のようだ。
「夏樹。今日はごはんとパン、どっちがいい?」
「ごはんー」
妹は今にも眠ってしまいそうな口調でそう言った。
「そうか。なら、ごはんにしよう。朝ごはんができたら呼ぶから、それまでに着替えておくんだぞ?」
「……はーい」
大丈夫かな? まあ、とりあえず朝ごはんを作ろう。
僕が妹の部屋を出ようとした時、妹は僕を後ろから抱きしめた。
「どうしたんだ? 他に何かリクエストがあるのか?」
「ううん、違うよ。ただ、こうしたかっただけだよ」
甘えたい気分なのかな? まあ、そんな時もあるよな。
「そうか。けど、僕は朝ごはんを作りに行かないといけないんだ。だから……」
「もう少しだけでいいから、このままでいて……」
耳元で囁くのは反則だぞ。
断れなくなるじゃないか。
「……分かった。もう少しだけだぞ?」
「わーい、やったー」
まったく、朝から可愛いなー。
その様子を扉の隙間から見ていた座敷童子はニコニコ笑っていた。
それは別に威圧や嫉妬ではない。
ただ朝から仲良しですねーと言いそうな笑顔だったのだから。