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命を他人に預ける

 風呂から出ると僕と夏樹なつきは背中合わせで寝巻きを身にまとった。

 兄妹とはいえ、年頃の男女がお互いの裸体を直視するわけにはいかないからだ。

 今日、バイト休みにしておいて良かった。

 じゃなきゃ、お祝いできなかった。

 明日から妹と登校できる。

 それが夢ではないことを確かめるために何度、自分の頬をつねったことか。


「ねえ、お兄ちゃん。私の髪、乾かして」


「え? あー、それは別にいいけど、歯磨きしながらだと危なくないか?」


 妹は歯ブラシに歯磨き粉をつけると、ニッコリ笑った。


「お兄ちゃんは私以上に私のことを知っています。だから、問題ないよ!」


「いや、問題あるだろ。僕が髪を乾かしている時に歯を磨いてるお前の手が滑ったらどうなる? 歯ブラシが歯とか歯茎に当たって血が出るかもしれないんだぞ? そんなことになるくらいなら、僕は自分の歯を磨くよ」


 夏樹なつきは彼の両手を自分の両手で包み込む。彼女は目をウルウルさせながら、彼にお願いする。


「お兄ちゃん、お願い! 明日は久々に登校するから確実にジタバタすると思うの。だから、そのジタバタの要因になるかもしれない髪をお兄ちゃんにしっかり乾かしてほしいの! ダメ、かな?」


「そ、そうか。うーん、まあ、たしかに明日はジタバタするだろうな。よし、分かった。今日は僕がお前の髪を乾かしてやるよ」


 彼女は心の中でガッツポーズをした。

 実の兄に髪を乾かしてもらえる。

 女の命である髪を異性に乾かしてもらう。

 それはもう自分の命を他人に預けているようなものだ。

 彼女は少し後ろに下がりながら、クルリと一回転した。


「お兄ちゃん! 早く早く!」


「はいはい、分かりましたよー」


 仲のいい兄妹というより、これはもうバカップルではないだろうか。

 彼はそんな疑問をいだきつつ、彼女の髪をドライヤーで乾かし始めた。

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