幸せがたくさん
雅人の部屋にいた天使の名前は彼の最愛の妹、夏樹である。
彼女はひきこもりであり『二口女』でもある。
ちなみに、ひきこもりの原因は彼女の後頭部にあるもう一つの口で食べている時に他人の視線が気になって仕方ないからである。
「お兄ちゃん、どうー?」
「ど、どどどど、どうって、そ、そそそ、そんなの、か、かかかか、可愛いに決まってるじゃないか!!」
ひどく混乱している兄の姿を見た夏樹はクスクスと笑った。
彼女が身に纏っているのは雅人が通っている高校の制服だ。
いつもは彼のワイシャツを着ているのだが、今日は制服を着ている。
それはつまり……。
「お、おおお、お前、もももも、もしかして!」
「うん! 明日から学校に行くよ! お兄ちゃんと一緒にね!」
やったああああああああああああああああああ!! という歓声が家中に響き渡る。
なぜ、彼がこんなに喜んでいるのかというと彼が重度のシスコンだからだ。
しかも無自覚。
「もう大袈裟だよー」
「いいや、まだ足りないくらいだ。とにかく今日はお祝いだ。寿司……は最近食べたな。じゃあ、赤飯にするか!」
そんな彼の頭をペシっと捌いたのは座敷童子の童子だった。
「少し落ち着いてください。近所迷惑です」
「夏樹が学校に行く決心をしたんだぞ! 宝くじを当てるなんかより、よっほどめでたいことなんだぞ!」
彼女は適当に相づちを打っている。
夏樹はニコニコ笑いながら、二人の間に割って入る。
「お兄ちゃんはテンション上げすぎだよー。童子ちゃんに分けてあげてー」
「お断りします」
彼女がきっぱり断ると、今までベッドの上にいた家出中の白猫が夏樹の胸めがけてジャンプした。
「よかったねー、夏樹ちゃん。明日からダーリンと一緒に登校できるよー」
「ありがとう。とっても嬉しいよ」
その日、制服に身を包んだ夏樹と一緒に食べた赤飯には幸せがたくさん詰まっていたそうだ。




