ヤダ! ヤダ! ヤダ! ヤダ!
結局、その日は部室に顔を出せなかった。
まあ、少ししか回復していないのだから当然だ。
けど、なんかみんなに申し訳ないな。
僕を待っててくれたのに。
雅人はそんなことを考えながら幼馴染の羅々と一緒に下校していた。
「なあ、羅々」
「んー? なあにー?」
彼女は少し嬉しそうに返事をした。
何かいいことでもあったのかな?
まあ、それよりも今は。
「お前は先に帰っても良かったんだぞ?」
「今日は雅人と一緒に帰りたい気分だったから、何があっても雅人と一緒に帰ります」
彼女はクルリと一回転すると彼の目の前で立ち止まった。
彼女は自分の顔をぐいと彼の方に近づけると、彼にこう訊ねた。
「雅人は私と一緒に帰るの嫌なの?」
「いや、別に嫌じゃないけど」
彼女はニッコリ笑うと、回れ右をする。
彼女は彼に背を向けたまま、こう言う。
「なら、別にいいじゃん。なんなら、手つないであげよっか?」
「いや、いいよ。恥ずかしいから」
彼が歩き始めると、彼女は自分の真横を通り過ぎようとした彼の手首を掴んだ。
彼はその手を振り払わなかった。
その場で立ち止まった彼は静かにこう言う。
「なんだ? 聞こえなかったのか?」
「ううん、聞こえてたよ。でも、私は雅人と手をつなぎたいの」
そんな彼女の願望は彼の一言で砕け散った。
「僕は今、そんな気分じゃないんだ。だから、今はできない」
「そ、そっか。そう、だよね。私たち、もうそういう仲じゃないもんね」
彼女は無理に笑っている。
それは彼にも理解できた。
しかし、ここで飴を与えてはいけない。
それを与えてしまったら、おそらく彼女の気持ちが溢れ出てしまう。
「そうだ。僕たちはただの幼馴染だ。今までも、そしてこれからも」
「で、でも、一応クラスメイトなんだからさ、たまには一緒に帰っても……」
彼女が最後まで言い終わる前に彼は冷たい一言を彼女に浴びせる。
「ダメだ」
「え? それって、どういう意味? 私、なんか雅人を怒らせるようなことしたかな? ねえ、雅人。ちゃんとこっち見てよ。じゃないと雅人が何を言いたいのか分からないよ」
彼は彼女と向き合う。
彼女は小刻みに体を震わせている。
それが恐怖によるものなのか、それとも不安によるものなのかは分からなかった。
だがしかし、今ここで言っておかなければあとできっと後悔する。
そう思った彼は彼女の両肩に手を置いてから、こう告げた。
「しばらくの間、僕に近づかないでくれ。理由は鬼の力を制御できるようになるまで誰も傷つけたくないからだ」
「な、何それ、意味分からないよ。ちゃんと説明してくれないと分からないよ」
ちゃんと説明するより、お前にはこう言った方が伝わるかな?
「僕にとって、お前の存在はとても大きなものだってことが今日、改めて分かったんだ。だから、しばらくの間、あまり僕に関わらないでくれ」
「……無理、だよ」
彼女は一度俯くと、ぱっと顔を上げた。
「そんなの無理だよ! だって、私! 雅人のこと大好きだもん!」
「羅々、これはお前のことを思って……」
彼女は彼に抱きつくと、目から透明な液体を出し始めた。
「ヤダ! ヤダ! ヤダ! ヤダ! 私、雅人のそばにいたいよ! 離れたくないよ! 私を置いていかないで! 私を一人にしないで! お願いだから! 何でもするから!」
彼は深く息を吸うと、彼女の耳元でこう囁いた。
「なら、僕の鎖になってくれないか?」




