子どもみたいだな
違和感がある。なんだろう。
なんかこう、時間の流れ方がおかしいような気がするな。
確信はない。けれど、なんとなくおかしい。
まるで歯と歯の間に食べ物が挟まっているかのような。
「つーかーれーたー」
「おい、昼休みになった瞬間、当然のように僕の席に来るな」
雅人の幼馴染である『百々目鬼 羅々』は彼の背後に回ると、彼を後ろから抱きしめた。
「だってー。今日、なんか時間の流れ方、おかしいもーん」
「そう感じてたのは僕だけじゃなかったのか」
彼女は彼の両頬を引っ張る。
「ふぉい」
「あははははは! 何言ってるのか分かんなーい!」
お前のせいだろうが。
でも、これはきっとこいつなりのストレス発散なんだ。うん、そういうことにしておこう。
彼は両手を手刀にすると彼女の脇めがけて、両腕を動かした。
が、それは脇ではなく別の場所に触れた。
「雅人くーん、これは何かなー?」
「え? 何って……あっ」
この両手に触れている感触。
柔らかさと程よい熱が伝わってくる。
これは……もしかして……。
彼はとりあえず両手をそっと膝の上に置いた。
その後、彼は静かに椅子ごと回れ右した。
「すみませんでした。今回は完全に僕のせいです。それでですね、なんとかこのことは二人の秘密にしておきたいと思っておりまして」
「ふむ。では、私の目を見なさい」
彼が彼女の方に目をやると、彼女は彼をギュッと抱きしめた。
「どうだった?」
「……え?」
何がだ?
「触ったでしょ? 私の胸」
「……え? あ、あー、はい、触りました」
彼女の吐息が彼の耳元をくすぐる。
「感想を述べよ」
「か、感想? いや、なんというか……すごく、柔らかかった……です」
彼女の声がいつもより色っぽく聞こえる。
「そっかー。それは良かった。でも、いくら幼馴染でもいきなり触られるとビックリしちゃうから、今度からはちゃんと言ってね?」
「え? あ、ああ、分かった」
ちゃんと言えば触ってもいいのか?
いや、でも学校でそんなことしていいわけが。
「ねえ、雅人。お昼にしよ」
「え? あ、ああ、そうだな。えっと、その……そろそろ離れてくれないか?」
彼が彼女にそう言うと、彼女はそれを拒んだ。
「ヤダ。このままがいい」
「いや、このままだと食べられないんだけど」
彼女は彼を離そうとしない。
「えっと、じゃあ、こうしよう」
「拒否する!」
まだ何も言ってないんだけど。
「いい加減にしろよ。さっきから何なんだよ。お前、なんか変だぞ?」
「変じゃないもん! 私、いつも通りだよ!」
いや、明らかにおかしいだろ。
どうしてこんなことになってるんだ?
「羅々、少し落ち着けよ。な?」
「じゃあ、頭撫でて」
は?
「頭撫でてくれないと、このまま締め殺すよ!」
「あー、はいはい、分かりましたよー」
彼が優しく彼女の頭を撫でると、彼女は彼の耳に甘噛みをした。
「それ、昔はよくしてたよな。なつかしいな」
「雅人ー……好きー」
彼女はそう言うと、スウスウと寝息を立て始めた。
「寝るの早いな。なんか、子どもみたいだな」
ん? 子どもみたい?
彼は教室を見渡した。
男子はヒーローごっこ。
女子はおままごとをしている。
いったい、何がどうなっているんだ?




