五分遅い
今日は四月三十日……のはず。
「ギリギリセーフ!」
「あっ、やっと来た。おはよう、雅人」
遅刻ギリギリ。滑り込みセーフ。
はぁ……なんとか間に合ったな。
「ああ、おはよう……って、なんで僕の席に座ってるんだ?」
「え? あー、えーっと、人肌で温めておきました」
人肌って、お前は人じゃないだろ。
もう僕も似たようなものだが。
「そりゃどうも。ほら、さっさと自分の席に戻れ。ホームルーム始まるぞ」
「はいはい。あっ、そうだ。ねえ、雅人」
彼の幼馴染である『百々目鬼 羅々』は手招きをする。
「なんだ? 先に言っておくが過度なスキンシップはするなよ?」
「分かってるよ。えっと、今日、部室に顔出せそう?」
まあ、今日は大丈夫かな。
「特に用事はないから大丈夫だな」
「そっか。じゃあ、ちゃんと顔出してね」
それは別に構わないが……なんか隠してそうな顔してないか?
「了解。さぁ、もう用事は済んだだろ。さっさと自分の席に戻れ」
「えー、まだ予鈴鳴ってないよー? もう少し話そうよー」
そんなはずはない。
あと数秒後に……。
「あれ? うちの時計より五分遅いな」
「え? そうなの? でも、まだ予鈴鳴ってないよ?」
教室にある時計の秒針はちゃんと動いている。
昨日は教室に入っていないから分からないが、その前の日はこんなことになっていなかったはずだ。
もし、これが誰かの手によるものだとしたら、どういう意図があって、そいつはこんなことをしたのだろうか。
「考えすぎ……かな?」
「何がー?」
きっとそうだ。うん、そういうことにしておこう。
「なんでもない。それより、今日の部活は何をするんだ?」
「それはまだ秘密だよー」
いつもより秒針の音が大きく、そして迫ってくるような感じがした。
気のせいだといいんだがな……。




