額にキス
朝になった。
竜巻は……ない。
家出中の白猫が雅人より早く目を覚ました。
彼女は彼の頬に肉球を押し当てた。
特に理由はない。
彼の寝顔を見ていると、なんとなくそうしたくなった。
要するに考えるより先に行動してしまったということだ。
「ダーリンの寝顔……可愛い♡」
彼女がそんなことを呟くと、雅人は静かに目を覚ました。
「……あ……お、おはよう」
「おはよう、ダーリン。いい夢見れた?」
夢……。
そもそも夢を見ていない場合はどうすればいいのだろうか。
まあ、一応、答えておくか。
「ま、まあ、そこそこいい夢だったかな」
「えー、本当? 怪しいなー」
ニヤニヤしながら彼の頬に肉球を押し当てる白猫。
彼は彼女から目を逸らしながら、小声でこう言った。
「夢なんて見てないって正直に言うべきだったかな」
「ふーん、そうなんだー。へえ」
あっ、まずい。
こいつ、猫だった。
しまった……これはもう言い訳できないな。
「そ、そうだよ。僕は昨日、夢なんて見てないよ。これで満足したか?」
「正直者は好きだよー。よしよし」
彼女は彼の鼻頭を肉球で優しく撫でた。
柔らかな感触が鼻をくすぐる。
こそばゆいな。けど、これはただのスキンシップだ。変に意識したら何を言われるか分からない。
「そ、そうか。えっと、そろそろ退いてもらってもいいかな?」
「えー、どうしようかなー。ダーリン、嘘ついたからなー」
あっ、これ、こいつの言いなりにならないといけないやつだ。
どうしよう。今すぐこいつを振り払ってしまおうか。
「た、頼む。早くしないと遅刻になる可能性があるんだ。だから……」
「私の額にキスしてくれたら、退いてあげるよー」
な、なんだ! その条件は!
僕に何の得もな……いや、そういう経験をしておくのも悪くないな……って、僕はいったい何を考えているんだ!
「そ、それはまた今度にしてくれ!」
「あっ! こら! 逃げるなー!」
その日はそんな感じの朝だった。




