はい、喜んで
雅人は夏樹(雅人の実の妹)と共に彼の部屋に向かった。
二階にあるその部屋まで辿り着くのに五分ほどかかった。
別にたくさん階段があるわけではない。
単に彼がぐったりしていたからだ。
とにかく疲労感と脱力感が彼を襲っている。
いったい何をしたら、そんなことになるのか。
まあ、原因はおそらく。
「童子ちゃーん! お兄ちゃん連れてきたよー!」
「ありがとうございます。雅人さん、大丈夫ですか?」
ベッドの上に座っているのは座敷童子の童子である。
雅人は苦笑しつつ返事をする。
「あ、ああ、なんとかな。はぁ……どうしてこんなことになったんだろうな……」
「それに心当たりがありますが、まずはこちらに来てください。話はそれからです」
まあ、そうだよな。
とりあえず、そっちに行かないと何も始まらないよな。
「そうだな。よし、分かった」
彼が夏樹に体を支えられながら、ゆっくり童子の元へと向かう。
「お兄ちゃん、あともうちょっとだよ。頑張って!」
「お、おう」
彼がぐったりしている様を見て、夏樹はかなり不安になった。
今にも死んでしまいそうな顔色で少しずつ前進する雅人は倒れるようにベッドにダイブした。
「よくできました。夏樹さん、ここからは私がなんとかします。なので、あなたはもう休んでください」
「それって、私がいたら邪魔ってことかな?」
そういう意味ではありません。
「いえ、違います。ここからは私にバトンタッチしてほしいと思っているだけです」
「そっか。なら、お兄ちゃんのこと、よろしくね」
夏樹が部屋から出ていくのと同時に家出中の白猫が彼の部屋の中に入った。
「雅人さん、とりあえず一度横になってください」
「お、おう」
まるで他の人よりも重力がかかっているかのように動く彼の姿は見ていて楽しいものではなかった。
「……や、やっと横になれた。それにしても、なんで急にこんなことになったんだろうな」
「それは鬼姫のせいです。あれが自身の体ではない仮の肉体で言霊の力を使ったせいで、あなたにその反動が……という話は置いておいて。とりあえず体を拭きますね」
彼女は彼の上体を起こすと、水が入っている洗面器に入っているタオルをギュッと絞った。
彼女は彼の背中を拭くために上に着ている衣服を捲った。
「なんかごめんな。肝心な時にお荷物で」
「弱気なあなたは嫌いです。しかし、それは同時に私のことを頼ってくれる可能性が高まるので、たまにはいいですよ」
それはつまり、たまにはお前に頼ってもいいってことか?
「そうか。それはありがたいな。その時はよろしく頼むよ」
「はい、喜んで」
その直後、家出中の白猫はジャンプした。
彼の目の前めがけて。
「よいしょ……っと。ダーリン、大丈夫?」
「ん? ああ、僕は大丈夫だよ。心配してくれてありがとな」
彼が白猫の頭を撫でると、彼女は満足そうに耳をヒコヒコと動かした。
「雅人さんが気を失っている間、あれは風の神様と戦っていました」
「は?」
あいつが風の神様と戦った?
いったいどうして?
「あれは戦闘狂ですが、あなたの体が傷つくと彼女もダメージを受けますからね。仕方なく、出てきたんでしょう。まあ、その結果、風の神様に恐怖を植え付けることができたんですけどね」
「それはいい結果なのか?」
まあ、少なくとも悪い結果ではないですね。
「さて、それはどうでしょうね」
「はぁ……勘弁してくれよ、まったく」
彼女は彼と話している間、ずっと微笑んでいた。




