歯磨き
夜。
雅人の幼馴染である『百々目鬼 羅々』は晩ごはんを食べて、しばらくすると帰宅した。
彼女がいなくなると、雅人は竜巻がなぜ消えたのかを考え始めた。
「雅人さん、どうかしましたか?」
「いや、竜巻がいつ消滅したのか覚えてないなーと思って」
当然です。
あなたは途中から鬼姫と入れ替わっていたのですから。
「そんなことより、今日はさっさと体を洗って歯を磨いて、おとなしく寝てください。あっ、別に自慰行為をするなと言っているわけではありませんからね。ですが、夜更かしはダメですよ?」
「大丈夫だよ。今日はそんな気力も体力もないから。よし、じゃあ、風呂に入ろうかな」
彼がソファから離れようとすると、彼は少しよろけた。
「お兄ちゃん! 大丈夫?」
「あ、ああ、なんとかな」
夏樹(雅人の実の妹)が彼の体を支える。
童子は彼がそうなった原因について考えた。
心当たりはあった。だが、確実にそうだとは言い切れない。
「雅人さん、今日は私が体を拭いてあげますから、もう今日は休んでください」
「そ、そうだな。でも、歯磨きはちゃんとしないといけないから、ちょっと行ってく……」
彼の意識が一瞬、途切れる。
「お兄ちゃん! 無理しないで! 歯磨きなら、私がしてあげるよ」
「僕はもう子どもじゃないんだ。それに妹である夏樹に迷惑をかけるくらいなら死んだ方がマシだ」
お兄ちゃん、こういう時は頼っていいんだよ?
「ダメ。というか、死にかけのお兄ちゃんをほっとけるわけないよ。ほら、横になって」
「し、しかし……」
夏樹は彼の唇に人差し指を押し当てる。
「お兄ちゃん、お願い。おとなしくして。ね?」
「わ、分かった。言う通りにするよ」
彼女はニッコリ笑う。
「そうそう、それでいいんだよ。よしよし」
「あ、頭を撫でるなよ。は、恥ずかしいから」
あれ? もしかして、照れてるのかな?
「はいはい。童子ちゃん、お兄ちゃんの歯ブラシ持ってきて」
「もう持ってきました」
さすが童子ちゃん! 分かってるねー。
「ついでに歯磨き粉も持ってきました」
「ありがとう。お礼に頭撫でてあげるよー」
童子はスッと彼女の手を躱す。
「気持ちだけで結構です。私は準備がありますので、これで失礼します」
「えー、つまんなーい」
童子は夏樹の言葉に耳を貸すことなく、その場からいなくなった。
「まっ、いっか。それじゃあ、お兄ちゃん。口開けてー」
「や、やっぱり恥ずかしいからパス」
えっとねー、普通に却下!!
「ダーメ。ほら、あーんして」
「あ、穴があったら入りたい」
あははは、恥ずかしがってるお兄ちゃん、可愛いなー。
そんな感じで彼は実の妹に歯を磨いてもらったのであった。




