風の力が込められている石
鬼姫はソファで眠っている。
座敷童子の童子が台所に向かおうとすると、天井に張り付いていた鎌鼬が降りてきた。
「あの、今回はどうもありがとうございました」
「え? あー、はい、どういたしまして」
鎌鼬は彼女の足元まで歩み寄ると、シッポの付け根から何かを取り出した。
「あの、これ、つまらないものですが」
「これは……ペリドットですか?」
童子がそう訊ねると、彼女はこう答えた。
「違います。これは風の力が込められている石です。私たちにとってはお守りみたいなものですが、私たち以外が持っていると風の力を使えるようになります。あー、でも、私たちの里ではそんなに珍しいものではないのであまり役に立たないと思います。なので」
「いえ、そんなことありませんよ。ありがとうございます」
彼女はその石を受け取ると、ニッコリ笑った。
「そ、そうですか。では、私はこれで失礼します」
「はい、機会があれば、またお会いしましょう」
鎌鼬はペコリとお辞儀をすると、小さな旋風と共に姿を消した。
「……行った?」
「はい、もう行きましたよ」
鬼姫はずっと寝たふりをしていた。
鎌鼬が自分を警戒していることに気づいていたからだ。
「そっかー。……で? それ、なあに?」
「これは……風の力が込められている石です」
鬼姫はスッと立ち上がると、スタスタと童子の方に歩み寄った。
「へえ、そうなんだー。見せて、見せてー」
「嫌です。というか、あなたには必要ないでしょう?」
童子は石を体内にしまう。
「ちょ、それは反則だよー。ねえねえ、見せてよー」
「嫌です。というか、早く雅人さんに体を返してあげてください」
鬼姫はニコニコ笑いながら、こう言う。
「石を見せてくれたら返してあげてもいいよー」
「本当ですね?」
彼女は、うんうんと頷く。
「では、少しだけですよ……とでも、言うと思いましたか?」
「ありゃ? バレた?」
童子は深いため息を吐く。
「バレないわけないでしょう?」
「だよねー。まあ、でも、時間稼ぎにはなったよ」
童子は彼女との会話の内容を思い出す。
しかし、もう手遅れだった。
「あたしが今まであなたに言霊の力を使わなかったのは、体を取り返せるくらい回復してなかったからだよ。でも、もう大丈夫。あたしは今日、体を取り戻しに行く。あっ、そうそう、麻痺状態はしばらくすれば治るから心配しなくていいよ。それじゃあ、いってきまーす」
「……そうはさせません」
彼女は自分の目の前にいる童子が残像だということに気づけなかった。
いつから残像だったのかすら分からなかった。
「……っ!?」
「まったく、油断も隙もありませんね」
童子は彼女を気絶させると、彼女をソファまて運んだ。




