何が楽しいの?
風の神様が天界に戻った後、座敷童子の童子と雅人の体を借りている鬼姫は公園で気絶している夏樹と羅々、ついでに家出中の白猫を回収して山本家に戻った。
「はぁ……」
「深いため息を吐かないでください。幸せが逃げていきますよ?」
鬼姫はソファにどっかり腰掛ける。
「幸せ? あたしが幸せになれる日なんて来るの? あたしの体はあたしの魂が戻れないようにしてあるし、魂は貧弱な人間の体に縛りつけられてる。こんなことなら、普通に封印してもらった方が良かったわよ」
「当時はそれができなかったのですから仕方がないでしょう? 今さら嘆いたところで何も変わりませんよ」
はいはい、そうですね。
「あんたはいいよねー。ずっと子どものままで」
「どういう意味ですか?」
は?
「そのままの意味よ。ずっと子どものままなら、失敗しても子どもだから仕方ないかーで済むじゃん」
「体が成長しないのは辛いのですよ? 魂だけの存在であるあなたには分からないかもしれませんが、子どもだから……まだ見た目が幼いからという理由で異性として見れないというケースが何度あったことか」
へえ、そうなんだ。
「お見合いとかしたことあるの? 妖怪同士で」
「何度かありますよ。まあ、あまりいい思い出ではありませんね」
ふーん。
「あたしさ、恋とか結婚とかに無縁だったからさ、よく分からないんだけど、そういうのって何が楽しいの?」
「私にもよく分かりません。ただ、好きな人と一緒にいると落ち着くというか、安心できるというか、とにかくそんな気持ちになれるんですよ。それで次第に、この人と一生を共にしたいだなんてことを思うようになって……って、何を言わせるんですか」
え? いや、あんたが勝手にしゃべったんだけど。
「あっ、そういえば、あんた、雅人のこと好きだったわよね?」
「そ、そうですが。それが何か?」
へえ、否定しないんだー。
「うーんとねー、もし、あんたが好きになった人がもうすでにあたしに全部乗っ取られているとしたら、どうするのかなーって思って」
「あなたはいずれ、この私が倒します。あなたが雅人さんの体の中にいるせいで彼は体を少しずつ蝕まれています。できれば、今すぐ出ていってもらいたいです」
でしょうねー。
「それは無理。今はまだ、ね」
「……そうですか」
二人はしばらくリビングにいた。




