まーきまき
風の神様を圧倒しているのは雅人の体を借りている鬼姫の魂である。
「どうしたの? あたしはここよ? ほら、かかってきなさいよ」
「く、来るな! 来るなああああああああああ!!」
風の神様は必死に風の刃を鬼姫に飛ばす。
しかし、それは彼女に当たらない。
「どうしたの? まさか、あたしが怖いの? まあ、片腕だけじゃ戦いにくいわよね。……来い」
その直後、地面に落ちていた風の神様の右腕が彼女の目の前まで飛んできた。
「どうする? 直接くっつけてほしいなら、そうするけど」
「は、早く返せ! それは私のだ!」
そういえば、神様に痛覚ってあるのかな?
まあ、それを確かめる前に殺しちゃってるから分からないわね。
「はいはい。……くっつけ」
「……っ!? ほ、本当にくっついた」
それくらい河童が作った塗り薬でもできるわよ。
「良かったわね。腕が戻ってきて。それで? まだ戦うの?」
「も、もういい! お前とは相性が悪すぎる。だから、もう……」
甘いなー。
「あたしはね、いつもポーカーフェイスのやつが快楽に溺れていく様や戦意喪失したやつを罵るのが大好きなのよ。だからね、あたしは今からあんたをボコボコにする。あんたが二度とあたしに逆らえなくなるように、鬼という言葉を聞いただけで恐怖で動けなくなるくらい徹底的にね」
「や、やめろ……。来るな……。だ、誰か……助けてくれ」
日本中を混乱させておいて、何もされないとでも思った?
「あんたは一応、神様なんだからさー。自分の身は自分で守ろうよー」
「こ、殺される……」
あんたは殺さない。
あたしという存在に怯えながら、生きていくのよ。
「相変わらず悪趣味ですね、あなたは」
「おっと、これはまずいわね」
座敷童子の童子が二人の間に割って入る。
「わ、童子ちゃん! 助けて! 殺される!」
「自業自得です。おとなしく罰を受けてください……と言いたいところですが、今は日本中に発生している竜巻をなんとかする方が先です。さぁ、早く鎌鼬たちを解放してください」
風の神様は童子の背後に隠れると、コクコクと頷いた。
「早くしてよー。殺されたいのー?」
「ご、ごめんなさい! 今すぐやります!」
子どもだからといって、甘やかしてばかりではいけませんね。
「……え、えっと、竜巻、まきまき、まーきまき」
「ふざけてんの?」
鬼姫がそう言うと、風の神様はブンブンと首を横に振った。
「あっ、そう」
「あまり怖がらせないでください。怯えています」
はいはい。
「竜巻が消えていきますね」
「ご、ごめんなさい。もうこんなこと二度としません」
すっかり反省していますね。
これにて一件落着。




