まだ戦う?
雅人の体の中にいる鬼姫の魂が彼の体を借りて、風の神様と戦っている。
「風よ! 目前の敵を引き裂け!!」
「この体は単なる器にすぎないから、あたしを殺すことはできないわよ?」
風の神様の攻撃が鬼姫に迫る。
彼女は両目を閉じた状態で人差し指を立てる。
「消え失せろ」
その直後、風の神様の攻撃は一瞬で消滅してしまった。
「な、なんだそれは……。何なんだ、それは!!」
「言霊。あたしはそれを自在に操れるの。まあ、文字使いと似たようなものね」
言霊使いだと?
鬼がそんなものを使えるなんて聞いたことがない。
「もしかして知らないの? まあ、そうでしょうね。この技の目撃者は全員、あたしが殺してるから」
「なぜだ……なぜ、そこまで」
暴走してる時にも無意識のうちに使ってたみたいだから、目撃者は目撃した瞬間、死んでいるでしょうね。
「なぜって、暴走してる時に力を制御できるやつなんていないでしょう? そんなやつがいたら、一度戦ってみたいわね」
「せ、戦闘狂め」
そうかしら?
あたしはまだマシな方だと思うけど。
「否定はしないわ。けど、その戦闘狂に一度も攻撃を当てられないあんたは、あたし以下ってことでいい?」
「ふざけるな! 私は風の神だ! お前より遥かに上位な存在だ!」
そうかしら?
「はいはい、そうですね。ところであんたの右腕どこに行ったの?」
「何を言っている。私の右腕はちゃんと……」
風の神様は右腕があるはずの場所に目を向けた。
しかし、そこには右腕がなかった。
「な、なんだこれは。いったい、いつから……」
「あたしが言霊の力を使うって思った瞬間から、あんたとあたしが発した言葉は全て言霊として使えるようになる。あとは、うまく繋ぎ合わせれば、そういうことだってできるってことよ。ちなみにあんたの右腕を切断したのは『もげろ』って言葉よ」
つ、つまり、こいつがいつどのタイミングで攻撃してくるのか分からないということか?
ふ、ふざけるな! そんな馬鹿げた力があってたまるか!
「この……バケモノがあああああああああああ!!」
風の神様が左手を振り上げると、巨大な竜巻が発生した。
「消えろ」
しかし、それは鬼姫がそう言った瞬間、消滅してしまった。
「わ、私の力が通じない……だと」
「そうみたいね。さぁ、どうする? まだ戦う?」
彼女はニコニコ笑っていた。
それに対して風の神様は恐怖に支配されており、ガクガクと体を震わせていた。




