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経験値不足

 風の神様は雅人まさとを誘拐した。

 彼女は今、神様という名の鎖から解き放たれているため、自分がやりたいことをやっている。

 彼女を誘拐したものから隠れみのを奪い、散歩中の鎌鼬かまいたちたちを自分の力で無理やり竜巻を起こすよう仕向けた。

 彼女はまだ幼いが、それ故に自分の感情をうまくコントロールできない。

 そのため、こんなことになってしまった。


「出てきなさい! 近くにいるのは分かっています!」


「へえー、この人、半分鬼で半分人間なんだー。ねえ、童子わらこちゃん。もしかして、この人のことに好きなのー?」


 座敷童子の童子わらこは文字の力で空中を移動できるようになっている。

 空中で静止している彼女は両目を閉じると、空気の流れを感じ始めた。


「そんなことしても無駄だよー。私は風の神様なんだからー」


「あなたはこの世にいる限り、呼吸をする必要があります。つまり」


 童子わらこは右手の人差し指で『むち』と書いた。

 それが白い光を放つむちになると、一点に向かって伸び始めた。


「痛い! あー! もうー! 何でバレたのー?」


 それで隠れみのを脱がすと同時に風の神の姿があらわになった。


「さぁ? なぜでしょうね」


「むぅー! 童子わらこちゃんのいじわるー! 教えてくれたっていいじゃない!」


 黄緑色の長髪と金色の瞳と白衣びゃくえ緋袴ひばかまが特徴的な美少女……いや美幼女『風の神』は雅人まさとちゅうに浮かせていた。


「では、今すぐ鎌鼬かまいたちたちを解放してください。それと今すぐ雅人まさとさんをこちらに引き渡してください」


「えー、やだー。私、まだまだ遊びたりないよー。あっ、そうだー。童子わらこちゃんも一緒に遊ぼうよー!」


 あなたは自分の力がどれほどのものなのか理解していません。


「それはできません。あなたがやっていることは遊びではありません。神様だからといって、何でもやっていいと思わないでください」


「じゃあ、神様って何なの? 毎日毎日、あれダメー、これダメーって言われて、嫌になっちゃったよ。ねえ、童子わらこちゃん。神様って、いったい何なの?」


 その問いの答えを出せるようになるまで、あなたは自分の力を無闇に使ってはいけません。


「神は影から人界を見守り、時に人を助け、時に人に罰を与える存在です。しかし、それはあくまで、この世に存在する書物や伝承によって今世まで伝わってきた認識にすぎません。神も人と同じく自我を持っています。子どものあなたには、まだ分からないことの方が多いでしょう。しかし、あなたはその小さな体の中にこの世の全てを破壊しる力を秘めています。力の使い方を誤れば、たくさんの生命が滅んでしまいます。この世はあなたの遊び場ではありません。命はおもちゃではありません。それを理解した上で、あなたは理想の神を目指してください」


「……理想の神かー。うーん、じゃあ、ちょっとこの人借りてもいい?」


 は?


雅人まさとだっけ? この人間、半分鬼だよね?」


「え、ええ、まあ、そうですが」


 まさか。


「人間の一年は神様にとっての十年。つまり、私はこの人間より年上ってことになるよね?」


「それはまあ、そうですが」


 嫌な予感がしますね。


「私はまだ経験値不足だと思うんだよー。だ・か・ら……私、この人と交わってみようと思うんだけど、いいかなー? いいよねー?」


「か、神様と人間とではたましいのレベルに大きな差があります! そんなことをすれば、雅人まさとさんは!」


 そんなことはさせません!


「半分鬼なんだから大丈夫だよ。それに、この人かなり性欲あると思うよー。だって、常人ならとっくに暴走してるくらいのあらゆる欲望を理性という名の箱に無理やり閉じ込めてるんだからー」


「だ、だからといって、両者の合意がなければそんなこと……」


 やめて。


「昔、童子わらこちゃん言ってたよね? 自分の物には名前を書けって。書くものがなければ、私の体の一部で書けばいいって」


「ダ、ダメです! やめてください!」


 やめて!


「私の体液で自分の名前を書くと、それは私の物になる。それは生き物であっても、その効果を発揮する。ということで、今からこの人を私のものにしちゃうよー!」


「そんなこと……させません!」


 童子わらこは風の神様にビンタをした。

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