近づかないで!
竜巻のせいで休校になってしまったため、暇である。
「……動けない」
膝には妹が。
頭の上には白猫が乗っているため、動こうにも動けない。
「うーん、どうしたものかな……。あっ、そうだ。このクッションを頭に敷けば……」
「ふんっ!」
僕がクッションに手を伸ばすと、夏樹(雅人の実の妹)は黒い長髪でクッションを拘束した。
彼女はそれを気持ち良さそうに眠っている座敷童子の童子に持たせた。
「な、なぜそうなる……。うう……誰かー、助けてくれー」
その声は誰の耳にも届かなかった。
もし、届いていたとしても空耳かな? と思われてしまうだろう。
「はぁ……」
彼が大きなため息を吐くと、リビングに誰かがやってきた。
「こんにちはー、お邪魔しまーす」
「え? ちょ、お前、どうやって入ったんだ?」
それは彼の幼馴染である『百々目鬼 羅々』だった。
「え? いや、普通に玄関からだけど?」
「鍵はどうした?」
彼女は僕に鍵を見せる。
「それは、いつ、どこで手に入れたんだ?」
「あー、その、えーっと……昔、雅人のお母さんがくれたんだよ」
本当かな?
「そうなのか? お前のことだから、百々目鬼の目の力を悪用したのかと思ったんだけど」
「わ、私はそんなことしないよー!」
言えない。一度見たものは目が覚えるだなんて絶対に言えない。
「ホントかー?」
「ほ、本当だよー!」
怪しいなー。
「それより、この状況はいったい何なの?」
「え? あー、これはな、耳かきしてやったら、こうなった」
え? 耳かき?
そういえば、うちの前に竜巻ないな。
童子が張った結界のおかげかな?
それですんなり入れたのかな?
まあ、今はそんなことどうでもいいけどな。
「というか、お前はいったい何しに来たんだ?」
「あー、その……お守り、今持ってる?」
お守り?
あー、あの目玉か。
「あー、あれか。えーっと、これか?」
「そう! それ!! って、もしかしてずっとワイシャツのポケットの中に入れてたの?」
ずっと……ではないな。
「えーっと、昨日は寝る前に机の上に置いてたから今日の朝、制服に着替える時に入れたな」
「そ、そっかー。えっと、じゃあ、もうそろそろ返してもらってもいい?」
あっ、そうだ。一応、あのことについて訊いておこう。
「それは別にいいけど、その前にこれを僕に渡した本当の理由を教えてくれないか?」
「え? それって、どういう意味?」
夏樹はあんなことを言っていたけど、やっぱりそんなことないよな?
「いや、なんかお前がこれを通して夏樹に僕が酷い目に遭っているところを見せて、夏樹を僕から遠ざけようとしたって夏樹が言うから、ちょっと気になってな」
「……そ、そんなわけないじゃん! 考えすきだよーー!」
だよな。そんなことないよな?
「だよなー。ごめんな、疑ったりして」
「べ、別にいいよー。じゃ、じゃあ、それ返してー」
彼女が彼に近づくと、夏樹が目を覚ました。
「お兄ちゃんに近づかないで!」
「な、夏樹。今、起きたのか?」
あー、びっくりしたー。
その時の彼はまだ気づいていなかった。
彼女の本心に。




