気まぐれ
夏樹は僕が耳かきをしている間に眠ってしまった。
「……いつのまにか、こんなに大きくなったんだな」
「んふふー♪」
なんだか嬉しそうだな。
僕の膝を枕にしている妹はニコニコ笑っている。
楽しい夢でも見ているのかな?
まあ、悪夢じゃないのなら、なんでもいいや。
あー、でも、夏樹の結婚式とかだったら、僕はもう夏樹のとなりにいられないんだよな。
「バカだな……ずっと一緒にいられるわけないってことくらい、ずいぶん前から分かってたのに。何を期待しているんだ、僕は」
それは兄として抱いてはいけない感情で、できればそれを打ち明けることなく一生を終えたい。
けれど、夏樹は僕のことを好いている。
だから、よっぽどのことがない限り、きっと受け入れてくれる。
「……なんてな……」
やめよう。それは実現しない。
実現してしまったら、僕は……。
「……お兄ちゃん」
「な、なんだ? ……って、寝言か」
びっくりした……。
起きているのかと思った。
「ずっと……私のそばに……いてね」
「……当たり前だ」
それがお前の望みだというのなら、僕はそれをきっと叶えてみせる。
「ダーリン。泣いてるの?」
「な、泣いてないよ」
家出中の白猫が何の前触れもなく、僕に話しかけてきた。
彼女はソファに飛び乗ると僕の頭の上まで、よじ登った。
「な、なんだよ」
「別に何でもないよー。ただ、こうしたかっただけだよー」
猫は気まぐれだ。
「お前はいいよな。毎日楽しそうで」
「それはダーリンたちがいるからだよ。じゃなきゃ、とっくにあの世に行ってるよ」
そう、なのか?
「ダーリンは肩に力を入れすぎなんだよ。今のままだと、いつか破裂しちゃうよ」
「破裂……ね」
たしかにそうかもしれない。
「たまにはいいこと言うんだな」
「まあねー」
どうやら白猫は僕の頭の上でのんびりすることにしたらしい。
本当に猫ってやつは気まぐれだな。




