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童心

 突如として出現した竜巻のせいで休校になってしまったため、暇になってしまった。

 まあ、たまにはこんな日があってもいいかな?

 いや、それはそれで嫌だな。自然災害で休みになるのはあんまり嬉しくない。


「あっ、そうだ。お兄ちゃん、耳かきしてー」


「唐突だな。でも、夏樹なつきの場合は自分の髪でどうにかできるんじゃないか?」


 夏樹なつき雅人まさとの実の妹)の黒い長髪は彼女の思う通りに動かせるため、彼女にとっては髪も手足のようなものである。


「ちっちっち。それじゃダメなんだよ。それでは、お兄ちゃんに質問です。自分で耳かきを使って耳掃除をするのと他人にやってもらうのとでは何が違うでしょーか?」


「え? あー、えーっと、き、気持ちよさかな?」


 妹は僕の目をじっと見つめる。


「正解です。ということで、童子わらこちゃん。ちょっと退いてー」


「嫌です。ここは私の席です。誰であろうと私が座っている間は私のものです」


 いや、誰のものでもないんだが。


「えー、そんなー」


「ダメなものはダメです」


 なんか戦争が起こりそうだな。

 僕の膝をめぐって。


「ねえ、ダーリン」


「ん? なんだ?」


 頭の上にいる白猫が僕の頭を軽く叩いた。


「こういう時は一つずつ解決すればいいと思うよー」


「一つずつ……か。うーんと、つまり、童子わらこが僕の膝から離れてくれるまで満足させた後、夏樹なつきの耳かきをする……みたいな感じか?」


 白猫は、うんうんとうなずく。


「まあ、そんな感じだねー。じゃあ、さっそくやってみようー」


「はいはい」


 僕は夏樹なつきの耳元で「少し待ってろ」とささやいた。

 夏樹なつきは目をパチクリさせながら首を縦に振った。


「なあ、童子わらこ。もしかして、お前も耳かきしてほしいのか?」


「い、いえ、私は別に……」


 遠慮するってことは少なからず、そういう欲求があるってことでいいのかな?


「まあまあ、そう言わずに。な?」


「わ、分かりました。では、お言葉に甘えて」


 僕が耳かきを取りに行こうとすると、夏樹なつきがニコニコ笑いながら僕にそれを手渡した。

 いつのまに取ってきたんだ?

 まあ、いいか。


「えっと、どっちから始めたらいいんだ?」


「で、では、右耳からお願いします」


 右か……。


「はいよ。それじゃあ、始めるぞ」


「は、はい。よろしくお願いします」


 なんかちょっと緊張してないか?

 うーんと、こういう時は耳を優しく触ってあげると緊張が和らぐ……はずだ。


「……雅人まさとさん、少しくすぐったいです」


「え? そうなのか? でも、いきなり始めたら体がびっくりするだろ?」


 座敷童子の体はほとんど人に近いから、おそらくびっくりする。


「そ、それはまあ、そうですが」


「あんまり動かれるとやりづらいから少しおとなしくしてろよ?」


 な、なんでしょう。なんだか体がふわふわしてきました。

 とても心地いい……です。


童子わらこ、そろそろ耳の中に……って、もしかして寝たのか?」


「みたいだね。なんだかよく分からないけど、お兄ちゃんのテクがすごいことは分かったね」


 テクって。

 まあ、いいや。


「とりあえず、片方だけでも終わらすか」


 けれど、片方だけでは済まなかった。

 彼が耳かきを終えようとすると、彼女は無意識のうちにこちらに顔を向けたからだ。

 これはもう、左耳もやれという意味で間違いないだろう。


「はいはい、やりますよー」


「今の童子わらこちゃん、とっても子どもっぽいね」


 そうだな。こんなの見せられたら僕より年上だなんて絶対思わない。だが、年上だ。


「まあ、そうだな。けどまあ、たまには童心に戻るのも悪くないんじゃないかな。いつも大人っぽく振る舞って背伸びしてるわけだし」


「だねー」


 そうだ。たまには童心に戻ってくれないと困る。

 じゃないと、いつ倒れるのか心配になる。

 そんなことを考えながら、僕は耳かきをしていた。

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