知人たち
はぁ……巨大化したところで僕に勝てるわけないのにどうしてそうするのかな。
まあ、別にいいんだけど。
「行くぞ! 雅人!!」
「来いよ、返り討ちにしてやるから」
でかくなっても鼠。
鬼の力を持つ僕にとっては敵ではない。
強くなりすぎると戦いそのものに興味がなくなってくるから困るのだが、弱すぎるよりかはマシだな。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
鉄鼠の動きが止まっているように見える。巨大化したせいでスピードが落ちている。
その代わり、攻撃力と防御力が上がっているようだが。
「遅いよ」
彼の拳に僕の妖力を少し込めた拳をぶつけると、彼はしりもちをついた。
「なんという力だ、我の攻撃がまるで歯が立たない」
「そりゃそうだろ。鼠が炎と戦ってるようなものなんだから」
だから戦いたくなかった。
一方的に相手を嬲るのは好まないからだ。
「しかし、それでこそ鬼の力を持つ者だ。我などに苦戦してもらっては困る」
「安心しろ、僕がお前に負ける可能性はこれっぽっちもないから」
けど、妙だな。
巨大化したとはいえ、僕に何も仕掛けてこないなんて。
力比べなら、僕が負けることはない。
しかし、鬼の力を持っていても人間の部分はある。
だから、毒やウイルス攻撃などは普通に効く。
鼠なら、そういうことができても不思議ではない。
なのに、今のところ体に異常はない。
「さて、それはどうかな?」
「ん? それはどういう意味だ?」
何か策があるとしたら、僕の知人をどうにかするしかない。
例えば、僕の妹か友人の命を奪われたくなければ、攻撃をやめろ、などだ。
そういえば、さっきから感じたことのある妖気を感じるな。
まさかとは思うが、ここまでついてきているのか?
はぁ……なるほど。
どうやら僕の嫌な予感は当たったらしい。
なぜなら、観客席に知人たちの顔が見えたからだ。
「今だ! 小僧の友人たちを捕まえろ!!」
「やっぱりか……」
観客たちに紛れて、黒いスーツを身に纏った大人たちが知人たちを取り囲んだ。
普通なら捕まってしまうだろうが、残念ながらそうはならない。
なぜか? それは各個撃破ならともかく、知人たちを倒すのは容易ではないからだ。
「両腕の目は飾りじゃないんだよー! 止まれ!!」
『百々目鬼 羅々』の両腕にある目玉を目にした者は動きを封じられる。
「ご、ごめんなさい!!」
『雪女 葵』は触るだけで万物を凍らせる。
「吹っ飛べー!」
『鞍馬 天』のうちわ(ヤツデの葉)はどんなに重かろうと、台風並みの風で相手を吹き飛ばす。
「失礼します」
『後 神奈』は相手の背後に突如として現れ、後頭部を攻撃する。
僕でさえ、彼女の気配を完全に察知することはできないのだから、相手にしたくない。
「雅人ー! 私たちのことは大丈夫だから、さっさとそいつ倒しちゃっていいよー!」
羅々、いくら的がでかくても致命打を与えるのは容易ではないんだぞ?
まあ、策がないわけじゃないから別にいいんだけどな。
「どうした? 何か策があったんじゃないのか?」
「……! こ、こうなったら、この闘技場ごと、お前を倒してやるわー!」
そうはさせないよ、僕たちが死ぬのは今日じゃないんだから!