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肉球で

 自室。


「……寝るか」


 今日やるべきことは全部終わったし、明日も学校あるし、もう遅いから今日はもう寝よう。

 雅人まさとがベッドに横になると、扉が勝手に開いた。

 人の気配はしなかった。そう、人の気配は。


「ダーリン。一緒に寝よう」


「なんだ、お前か。おどかすなよ」


 彼女は家出中の白猫だ。人語を話しているため妖怪であることは分かっているが、それ以外はよく分からない。


「ねえねえ、一緒に寝てもいい?」


「別にいいけど、いたずらするなよ?」


 まあ、猫に何をされようと別に気にならないんだけどな。


「はーい」


「……じゃあ、おやすみ」


 白猫は彼の腹部に向かうと、服の中に入った。

 彼女は上に向かって進んでいった。

 トンネルを抜けると、彼の顔が目に入った。


「ダーリン、ダーリン」


「……ん? なんだ?」


 彼女はシッポを左右に動かして、彼の腹部をくすぐる。


「ちょ、いたずらするなって言っただろ?」


「そんなの無理だよ。だって、面白い反応するんだもん」


 面白い反応?


「あのな、僕はもう寝たいんだよ。だから、今日はもうやめてくれ」


「えー、たまには夜更かししようよー」


 こいつ、たまに羅々(らら)っぽくなるよな。


「ダーメーだ。ほら、さっさと寝ろ」


「むう……。じゃあ、私との勝負に勝ったら考えてあげてもいいよー」


 やっぱり、そうなるのか。


「勝負ねー。うーんと、とりあえず勝負の内容を教えてくれないか?」


「いいよー。えーっとねー、ダーリンが私にドキドキしたら負けー」


 は?


「おやすみ」


「あれー? それは負けを認めたってことでいいのかなー?」


 ね、猫に負けるのは嫌だな。


「分かった、やるよ。やればいいんだろ」


「わーい! ありがとう。ダーリン、大好きー!」


 はぁ……どうして僕はこんなに流されやすいんだろう。


「じゃあ、始めるよー。肉球でスイッチを入れまーす。ポチッとな!」


「……っ!?」


 お、落ち着け。相手は猫だ。

 別の種族に責められて欲情なんかするもんか!

 絶対に耐えてみせる!


「ダーリン、気持ちいいー? ねえねえ」


「べ、別になんともないぞ」


 嘘ですって、顔に書いてあるよ。

 もうー、分かりやすいなー。


「そっかー。じゃあ、次は首筋ペロペロー」


「……っ!!」


 ザラザラしてるけど、これはこれで……って、そうじゃない! 気持ちよくなっちゃダメだ!

 しっかりしろ! 相手は猫だぞ!?


「あれー? なんかちょっと震えてるよー。大丈夫ー?」


「だ、大丈夫だ」


 大丈夫じゃないって顔に書いてあるよー。

 やっぱりダーリンは面白いなー。


「耳も舐めちゃおう。はーむっ!」


「……くっ!」


 え、えーっと、たしかこういう時は素数を……。


「ダーリンの耳、おいしい。もっと舐めてもいい? いいよねー?」


「そ、それは……」


 私、もう……我慢できない!

 それからのことはよく覚えていない。

 気づいたら朝になっていた。


「……むにゃむにゃ。ごちそうさまでしたー♪」


 結局、僕は全然眠れなかった。

 もうこいつとは寝たくない。

 けど、たまに抱き枕にしたい。

 彼は朝日を浴びながら、そんなことを考えていた。

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