糸が絡まっている
風呂。
「まだ少し痛むな……」
数時間前に腹部に空いた穴。
幸か不幸か、体のほとんどが鬼化しているため雅人はこうして生きていられる。
しかし、やはり鬼憑きの一撃はそれなりに痛かった。車が激突してきたら車がスクラップになるくらい頑丈になっているが、自分と近しい存在の攻撃は効くらしい。
「まあ、寝れば治るだろ」
彼がそんな独り言を言うと、浴室に入ってきた者がいた。
「そうとも限りませんよ」
「そ、そうかな?」
座敷童子の童子は当然のように彼の背中を洗い始めた。
「いくらあなたの体が丈夫でも、きちんと治しておかないといざという時に動けません。なので、今日は私があなたの体を洗います」
「いや、いいよ。自分で洗えるから」
今すぐここから逃げ出したい。
「あなたがあんなことになったのは私のせいです。私がもう少ししっかりしていれば、あんなことにはならなかったはずです」
「それは考えすぎだ。というか、あいつらが協力して僕の力を狙っていることに気づいていたとしても、僕はあそこに向かったと思うぞ?」
そう、でしょうか?
「あなたはそこまでお人好しではないはずです。あの男と出会った時点でそれに気づけていれば、あなたは傷つかずに済みました」
「でも、僕はこうして生きている。だからさ、あんまり自分を責めるなよ。お前は自分にできることを精一杯やってくれたよ。ありがとな」
感謝されているのに嬉しくないのは、なぜでしょう。
「どういたしまして。それで、おなかの傷はどうなっていますか?」
「大丈夫だよ。ちょっと蠢いてるけど」
蠢いている?
「少し見せてください」
「え? ちょ、待っ!」
彼女は彼の正面に移動すると、彼のおなかに手を当てた。
「雅人さん」
「な、なんだ?」
なんだよ、その真剣な表情は。
「少しいじってもいいですか?」
「え? そ、それって、僕のおなかを……ってことか?」
彼女はコクリと頷く。
「えっと、それは別にいいけど、なんかまずいのか?」
「簡単に言うと、糸が絡まっている状態なので少し直します」
な、なるほど。
「わ、分かった。えっと、優しくしてくれよ?」
「意味深なことを言わないでください。それでは、始めます」
数分後。
「終わりました。お礼は結構です。ですが、今日は一緒に湯船に浸かりましょう」
「え? あ、ああ、分かった」
なんか童子の頬がちょっと赤くなってるような気がしたな。
気のせい、かな?




