それがいい
帰宅。
「ただいまー」
「おかえり! お兄ちゃん!!」
雅人たちが帰ってくると、玄関で待っていた夏樹(雅人の実の妹)が彼に抱きついた。
「ただいま。えっと、僕の血の匂いが取れなくなるから少し離れてもらっていいか?」
「血の匂い? もしかして、誰かにひどいことされたの?」
うーん、まあ、そうなるかな。
「あれくらいじゃ僕は死なないよ。転んで血が出た程度だよ」
「お兄ちゃん、それ嘘だよね? まだ少し痛むんでしょ? おなか」
夏樹には敵わないな。
「まあ、そんな感じ……かな」
「そっか。それで? 誰にやられたの? 例のストーカー? それとも、別の誰か?」
あー、ちょっとこれは危ないな。
「い、いや、でも、そんなに痛くないから大丈夫だよ。ほら、元気! 元気!」
「お兄ちゃんは優しいね。けど、私は許さない。私のお兄ちゃんを傷つけておいて生きていられるわけがない。そうだ、今からそいつの息の根を止めに行こう。うん、そうしよう。それがいい。そうするべきだ。そうしないと私の気が済まない。絶対許さない。許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない……」
これはまずい!!
「夏樹! 僕は本当に気にしてなんかないんだ! だから……!」
「いい加減にしてください!」
童子は夏樹を押し倒すと、彼女の襟首を掴んだ。
「雅人さんがこうして無事に戻ってこられたのは雅人さん自身が理性を失うことなく厄介事を片付けてきたからです! それなのに、あなたは!」
「童子ちゃん、痛い」
童子は自分が彼女にしたことを認知すると、ゆっくりと彼女から離れた。
夏樹はゆっくり立ち上がる。
「お兄ちゃん、お守り今持ってる?」
「お守り? あー、羅々がくれた目玉のことか。それがどうかしたのか?」
彼女は彼に向けて手を出した。
「それ、貸して」
「え? あー、分かった」
彼女にそれを渡すと、彼女は数秒見つめた後、こう言った。
「あのね、お兄ちゃんと童子ちゃんが地下で何と戦ってたのか、私知ってるんだ」
「え? そ、それって、まさか……」
そのまさかだよ。
「あの女はね、私にそれを見せるためにお兄ちゃんにそれを渡したんだよ」
「そ、そうだったのか。けど、どうしてあいつはそんなことを……」
そんなの簡単だよ。
「そんなの決まってるよ。私にお兄ちゃんが酷い目に遭っているところを見せて、私の気持ちが変わるように仕向けたんだよ」
「あ、あいつはそんなことするようなやつじゃないよ」
そうだ、あいつはそんなことするようなやつじゃない。
「でも、それ以外に考えられる?」
「き、きっと間違えたんだよ。自分が見ようとしてたら、動作不良か何かで誤って……」
だといいんだけどね。
「そうだね。今はそういうことにしておくよ。じゃあ、おやすみ」
「あ、ああ、おやすみ」
なんだろう、なんだかものすごく嫌な予感がする。




