掃除係
地下。
「僕の体は……もうほとんど鬼化してるんだよ。もし僕を殺せる存在がいるのだとしたら、それは多分、文字使いだけだろうな」
「な、なぜだ! 腹に穴が空いているのに、なぜ倒れないんだ!」
雅紀……いや、今は怒鬼か。
人っていう生き物は……ゴキブリ並みにしぶといんだよ。
「さぁ、どうしてだろうな? まあ、話したところでお前には一生理解できないだろうな」
「バ、バカにするな! 死ねええええええええ!!」
雅人は腹から出ている血を手につけると、それを怒鬼の両目にぶっかけた。
「め、目がああああ! 目がああああああああああああああああああ!!」
「大丈夫、大丈夫。水で洗えば、なんとかなるから。さてと……終わったか? 童子」
童子はいつもの真顔でこちらを見た。
「はい、つい先ほど、終わりました。私自体がカッターのようなものになったことに気づかず攻撃してきた時は正直、呆れました」
「そうか。まあ、向こうはお前を倒すのに必死だったからな。そこまで気が回らなかったんだろう」
彼はもう治りかけている腹部をじっと見つめ始める。
「やっぱり、僕の体はもう人じゃないんだな」
「しかし、そのおかげで今回は助かりました。結果オーライです」
まあ、そういうことにしておくか。
「まあ、そうだな。えーっと、こいつら、どうしよう」
「一応、家の者に頼んでありますので、もうじきここに来ると思います」
有能すぎだよ、お前は。
というか、どこまでが想定内なんだろうな。
「そうか。じゃあ、怒鬼を少しおとなしくさせないといけないな」
「そうですね。そーれっ!」
童子が人差し指で書いたのは『脱力』。
それは怒鬼の胸骨あたりから体内に侵入した。
その直後、やつはその場で倒れた。
「これでしばらくはおとなしくなります。一応、向こうにも、これと同じことをやっているので大丈夫です」
「そうか。お疲れ様」
彼が彼女の頭を優しく撫でると、彼女は頬を赤く染めた。
「こ、子ども扱いしないでください。でも、まあ、頭を撫でられるのは嫌いじゃないので、もう少しだけなら撫でてもいいですよ?」
「そうか。なら、お言葉に甘えて」
彼らは童子の家の掃除係が来るまで、その場で待機していた。




