怒鬼
地下。
「絶対に殺す! お前だけは絶対許さない!!」
「怒りと憎悪に支配されてるから、お前はこんなところにぶち込まれたんだよ。だからさ、少し落ち着けよ」
雅人が雅紀にそう言ったが、それは火に油を注ぐようなものだった。
「うるさい! 部外者は引っ込んでろ! 俺はそいつに用がある! お前なんかに用はないんだよ!」
「そうか。けど、僕にはあるんだよ。童子、こいつの力を少しだけ抜き取ることはできるか?」
彼女はコクリと頷くと、人差し指で『抜』と書いた。
それは雅紀の胸骨あたりから体内に侵入した。
「な、なんだ? 力がどんどん抜けて……」
「世界には、こいつみたいな文字使いがいる。鬼だろうと悪魔だろうと、この力の前では無意味だ。さて、まずはお前の名前を聞かせてもらおうか。雅紀の方じゃなくて、雅紀に取り憑いている鬼の名前だ」
彼は警戒している。
まあ、突然やってきた者たちに自分の名前をほいほい教えるやつなんて、ほとんどいないだろうから別にいいんだけどな。
「僕たちはお前を雅紀の体から追い出すためにやってきたんだ。言っておくが、文字使いの力はお前がいくら抗おうと、その効果を発揮するから無駄な抵抗はするなよ?」
「だ、黙れ! 殺してやる! お前なんか殺してやる!」
できないくせに……。
「童子、頼む」
「はい」
童子が人差し指で『自白』と書くと、それは彼の胸骨あたりから体内に侵入した。
「よし、じゃあ、お前の名前を教えてくれないか?」
「……ど、怒鬼だ」
ふむ。
「じゃあ、次の質問だ。お前はいつから雅紀の中にいるんだ?」
「少し前からだ」
最近、取り憑いたのか。
「取り憑いた理由は?」
「弱っていたからだ」
弱っていた?
「雅紀がか?」
「そうだ。こいつはもうすぐ死にそうだった。だから、助けようと思った。ただ、それだけだ」
なんだ、案外いい鬼じゃないか。
「そうか。それで? 雅紀は今、生きているのか?」
「俺が出ていけば、こいつは死ぬ」
何?
「それ、雅紀の父親にちゃんと伝えたのか?」
「伝えた。けど、そいつは俺の力を欲した。息子の命より、俺の力が欲しいと言った。抵抗しようとしたら、ここに閉じ込められた」
なるほど。つまり……。
「あんたはいったい何を考えてるんだ? 自分の息子の命をなんだと思ってるんだ!」
雅人が牢屋の外にいる影のような男にそう言う。
「当然だろう? 目の前に大金があるのに、それを掴もうとしないのは愚者のすることだ」
「それで金よりも大切なものを失うことになるってことを知っても、あんたは同じセリフを言えるのか!」
空気がピリピリし始める。
今にも雅人がそいつに襲いかかろうとしている。
それを止めたのは童子だった。
「雅人さん、そいつの狙いはあなたの力です。なので、一旦落ち着いてください」
「なんだと? それは本当か?」
彼女はコクリと頷くと、そいつの作戦について語り始めた。




