妙な空気
地下。
「なあ、まだ着かないのか?」
「もう少しだ」
そのセリフ、さっきも聞いたぞ。
こいつの息子が鬼憑きでかなりやばい状態だって言うから来たけど、いったいいつまで歩けばいいんだ?
だいたい、自分の息子をこんな牢屋みたいなところに拘束しないといけないほど、まずい状態なのか?
ランプを片手に持った男は何も言わずにスタスタ歩いていく。
「なあ、童子。あいつはちゃんと目的地に向かって歩いているのか?」
「一応、目的地には向かっていますよ。文句があるなら本人に直接言ってください」
あいつに何を言っても上の空なんだよ。
まったく、ちゃんと受け答えぐらいはしろよ。
それからしばらく歩くと、目的地に到着した。
「着いたぞ」
「ここか。えーっと、牢屋の中で両手足を拘束されて、ぐったりしてるのがあんたの息子なのか?」
彼はコクリと頷く。
「そうか。じゃあ、鍵を開けてくれ。童子、一緒に来てくれるか?」
「はい、もちろんです」
彼はズボンのポケットから鍵束を取り出した。
多数の鍵のうち、一つを選ぶとそれを鍵穴に突っ込んだ。
ガチャリという音が響き渡ると、扉がギィーという音を立てながら開いた。
「よし、行くぞ」
「はい」
二人が中に入ると、彼はなぜか鍵を閉めた。
「おい、なんで今閉めた?」
「必要だからだ」
わざわざ鍵をかけなくてもいいだろ。
まあ、いいけど。
「さてと、それじゃあ、始めますか。おい、雅紀。生きてるか?」
「雅人さん、安易に近づかないでください。ちゃんと息をしていますから」
そうだよな。同じ鬼憑きの僕が触れたら暴走するかもしれないな。
「分かった。じゃあ、僕の代わりにやってくれ」
「分かりました。一応、調べられるだけ調べます」
彼女が彼に近づくと、妙な空気が流れ始めた。
この感じ、山羊さんの時と似てるな。
「童子、一旦そいつから離れろ」
「分かりました」
彼女が彼の元に戻った瞬間、そいつは目を覚ました。
「この俺をこんなところにぶち込んだやつはどこのどいつだ?」
「お前の親父だよ。覚えてないのか?」
白目が赤くなっているそいつの顔からは、すさまじい憎悪が滲み出していた。
「そうだ。あいつだ。お前らの後ろにいるそいつがこの俺を拘束しやがったんだ! おい! さっさとここから出せ! さもないと、ぶっ殺すぞ!」
「暴走してないってことは雅紀の意識はまだどこかにあるってことか」
さてさて、どうしたものかな。




