少しだけ人類に期待しているからだ
高性能AIを搭載したロボット『勧善懲悪くん』たちは世界の至る所に配備されている。一家に最低一機配備されているため人類はもうそれなしでは生きていけない。
「ありがとう、雅人。雅人のおかげで明日死ぬんじゃないかってくらい儲かってるよー」
「そうか。だが、人類はこれからも自分たちが生きやすい社会を構築し続ける。明日この星が死ぬとしてもほとんどの人はきっとそんなの真に受けない」
「そうだねー。あっ、そうだ。今から実験してみる?」
「どんな実験だ?」
「今動いてる勧善懲悪くんをぜーんぶ強制停止させるんだよ」
「そんなことしたら大変なことになるぞ」
「そうだねー。でも、そうでもしないとあいつら危機感抱かないよ」
「それはそうだが、いきなりやると絶対パニックになるぞ」
「ねえ、雅人。そろそろ人間の数減らそうよ」
「人間はいずれ滅びる」
「そんなの待てないよ。ねえ、雅人。いなくなっても困らない人間を毎日百人くらい消そうよ」
「その気になればそんなのいつでもできる」
「じゃあ、どうして消さないの?」
「少しだけ人類に期待しているからだ」
僕の幼馴染『百々目鬼 羅々』は新聞紙で作った小さな籠の中にある焼き魚の目玉をいくつか手に取ると自宅のリビングにあるソファの背もたれに体を預けた後、それを口に含んだ。
「……そっかー。夏樹ちゃんはどう?」
「私とお義兄ちゃん以外どうなってもいいって思ってるよ」
「あははははは! 夏樹ちゃんは相変わらずブラコンだねー。しかも現状夏樹ちゃんをどうにかできるの雅人だけだからほぼ無敵なんだよねー。ねえ、夏樹ちゃん。私と手を組まない?」
「やだ」
「だよねー。でも、今のままだと誰かに雅人取られちゃうよー」
「その時は私が全力で阻害する」
「私や学校の同級生でもそうする?」
「うん」
「そっかー。じゃあ、試していい?」
「何を?」
「今から世界中の人間の目をジャックして雅人を運命の人だと認識させるんだよ」
「そんなことさせない」
「ごめん、実はもう始まってるんだよ」
「安心しろ、夏樹。それはもう無力化した」
「そっか」
「えー、もう終わりー? はぁ……なんかつまんないなー」
「僕たちがどんどん強くなる一因はお前が僕たちに厄介な依頼を持ってくるからなんだが……」
「えー? あー、まあ、そうだね。あっ、メールだ」
「勧善懲悪くんからか?」
「うん。あー、これはまずいなー」
「どうした?」
「勧善懲悪くんに仕事を奪われた人たちが勧善懲悪くんを排除しようとしてる」
「そうか。で? お前はどうしたいんだ?」
「うーん、そうだなー。ねえ、雅人。人間を勧善懲悪くんにできる薬作れない?」
「お前、人間をロボットにするつもりか?」
「あー、今のは私の言い方が悪かったね。えっとね、自分のことを勧善懲悪くんだと思い込む薬って言えば分かるかな?」
「なるほど、そういうことか。それなら薬を作るまでもないぞ」
「そっか。じゃあ、今すぐそれできる?」
「うーん、それよりその人たちに勧善懲悪くんをサポートする仕事を与えた方がいいんじゃないか? あー、もちろん給料は僕が払うよ」
「おー! それ、いいねー。じゃあ、そうしよう」
「お義兄ちゃんは甘いなー、そいつら全員地獄行きでもいいのにー」
「夏樹、それをすると今よりもっと敵が増えるぞ」
「だよねー。ねえ、私もそれ手伝っていい?」
「ああ、いいぞ」
「やったー!!」
「よし、じゃあ、いってくる。何かあったら呼んでくれ」
「はいはーい、二人とも頑張ってねー」
さてと……そろそろ別の星に勧善懲悪くんの良さをアピールしますか。




