よし、今だ!!
久しぶりの外食。
お寿司を楽しく食べたい。
向こう側の客がこちらが取ろうとしていた皿を奪っている。
さて、どうする?
「夏樹。アナゴを取ってくれないか?」
「はーい」
夏樹(雅人の実の妹)が目的のお皿に手を伸ばす。
向こう側の客もそれに手を伸ばす。
よし、今だ!!
「あー、やっぱりエビでいいや」
「りょうかーい」
夏樹がエビの乗ったお皿を取る。
向こう側の客はアナゴの乗ったお皿を取る。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
同じ手は使えないが、これで相手も手を出しづらくなっただろう。
「私が食べさせてあげます」
「いや、いいよ」
雅人の太ももの上に座っている童子は彼の言葉を無視して、雅人にお寿司を食べさせようとする。
「あー、はいはい、分かったよ」
「……どうですか? 私の味は」
その言い方はどうなんだ?
「その言い方だと、僕がお前を食べてるみたいじゃないか」
「私が食べさせてあげたのですから、私を食べているのと同じでしょう?」
どういう理屈だよ。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
「ん? なんだ?」
夏樹が目を輝かせている。
食べたい物が流れてきたのかな?
「あー、玉子だけ乗ってる皿が欲しいのか」
「うんうん!!」
よし、じゃあ、ここは童子の力を借りよう。
「童子。頼んだぞ」
「はい」
童子が空中に『浮』という文字を書いて、目当てのお皿に向かって飛ばした。
すると、その皿はフワフワと浮遊し、妹の目の前までやってきた。
「わーい! やったー!!」
「良かったな」
おっ、お帰りですか?
まったく、もう人の食事の邪魔をするなよ?
「お兄ちゃん、どうしたの? 食べないの?」
「ん? あー、食べる、食べる。えーっと、どれにしようかなー」
そんなこんなで楽しく食事ができた。
まあ、もうあんな客がいる店に行きたくはないが。
「あー! おいしかったー! また来ようね!」
「あ、ああ……」
妹の後頭部にあるもう一つの口は相変わらずよく食べる。
二百皿くらいは食べてたぞ。
でもまあ……。
「満足してくれたのなら、僕はそれで構わないよ」
「ん? 今何か言ったー?」
難聴かな? いや、違うな。
「いや、別に何も言ってないよ」
「そっか。なら、いいけど」
童子が僕の袖を引っ張る。
「ん? なんだ?」
「気づいていますか?」
ああ、気づいてるよ。
「さっきの客が後ろにいることか?」
「はい、そうです」
店でのあれはまあ、まだ許せる。
けど、僕たちに何かしようと思っているのなら、その時は……。
「何かしようとしたら、すぐに止めてくれ」
「はい」
まったく、何がしたいんだか。