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ステラーカイギュウプシロンは優しすぎる
ステラーカイギュウの突然変異体……それが『ステラーカイギュウプシロン』である。やつは命を『二十』個持っている。主食はこんぶなどの海藻である。
「君のおかげで水難事故と海難事故で亡くなる人の数は激減している。けど、どうして自分たちを絶滅させたと言っても過言ではない人間を助けるんだ?」
「うーん、そうだなー。たしかに我々は人間に乱獲された。一頭を痛めつけるとその一頭を助けようと家族や仲間が集まってくる習性を利用され、あっという間に絶滅した。まあ、ラッコの乱獲も絶滅の一因ではあるが、当時の人間たちはそうなるとは思わなかっただろうね。だが、それがなかったとしても我々はあまり早く泳げないから他の種族によって滅ぼされていたと思うよ」
「つまり『罪を憎んで人を憎まず』ってことか?」
「まあ、そういうことになるのかなー。あっ、プールで子どもが溺れてる。助けに行かないと」
「そうか。僕も同行していいかな?」
「もちろん。さぁ、行こう」
「ああ」




