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両者の合意

 童子わらこの部屋でのんびりしていると童世わらよさんがやってきた。


「お母様……」


童子わらこ。さっき『地獄門』を呼んだでしょ?」


 なぜバレているのか。

 それもそのはず。だって、この家は童世わらよさんに監視されているのだから。


「は、はい……」


「いくら文字使いでも、あんなものを呼び出しちゃダメ。分かった?」


 童子わらこは少しうつむきながら、返事をした。


「それで? 式はいつなの?」


「え? 私はまだ死にませんよ?」


 ん? なんか話が噛み合ってないぞ?


「そっちの死期じゃなくて、結婚式の方よ」


「えっと、誰と誰の結婚式ですか?」


 童世わらよさんはニコニコ笑いながら、こう言う。


「そんなのあなたと雅人まさとくんの結婚式に決まってるじゃない」


「……えっと、その……わ、私たちはまだそういう関係ではなくてですね。あくまで恋人(仮)のようなものなんですよ」


 おい、僕に助けを求めるな。

 目をウルウルさせるな!

 あー、もうー! 分かったよ!

 僕がちゃんと事情を説明してやるよ!


「え? そうなの?」


「はい、そうです。童子わらこはまだ自分の気持ちが本当かどうか分からないらしいので、僕たちの関係は恋人(仮)です」


 童世わらよさんは雅人まさとの方に近づく。


雅人まさとくんは童子わらこのこと、好き?」


「え? あー、えーっと、嫌いではないですね」


 童世わらよさんは彼の背後に回ると、耳元でこうささやく。


「じゃあ、好き?」


「えっと、ラブじゃなくてライク……ですかね」


 童世わらよさんは彼を後ろから抱きしめる。


童子わらこは将来、歴代の文字使いの中でもかなり強くなるわよ。あなたの中にいるおには私が生きている間にどうにかして追い出してあげる。だから、童子わらこと結婚してくれない?」


「そ、それだと僕はただの人間になってしまいますよ?」


 童世わらよさんはニコッと笑う。


「大丈夫、大丈夫。私の友達に人魚がいてね、少しくらいなら肉を分けてもらえるかもしれないの。だから、ずーっと童子わらこと生きていけるわよ」


「え、えっと、その……わ、童子わらこがそれを望んでいないかもしれませんよ。なあ、童子わらこ


 彼が童子わらこの方を見ると、彼女は頬を赤く染めていた。

 おいー! そこは嘘でも望んでないと言ってくれー!


童子わらこは別に構わないみたいね。ねえ、雅人まさとくん。いったい何がいやなの? 他に好きな人でもいるの?」


「え、えっと、その……い、妹が……夏樹なつきが立派な大人になるまでは僕は誰とも結婚しないと誓っています」


 童世わらよさんは彼の正面に移動すると、彼にぐいと顔を近づけた。


「つまり、その妹さんが成人したら童子わらこと結婚してもいいってこと?」


「正確には妹がどこかにとつぐか、ちゃんと兄離れしないとダメです」


 童世わらよさんはパンッ! と合掌する。


「分かったわ。じゃあ、私の舌に『約束』って書いて」


「え? いや、それはちょっと……」


 童世わらよさんは「ふふふ」と笑う。


「冗談よ。私の手に『約束』って書いて」


「お母様! 何もそこまでしなくても!」


 童世わらよさんは童子わらこの方を見る。


童子わらこ。これはただの保険よ。雅人まさとくんの心の内をのぞいた時、彼の心はきれいだったわ。だから、童子わらこにひどいことをしたりしない人だっていうことは知ってるわ。けどね、ここで約束しておかないと何が起こるか分からないの。それくらい分かるでしょう?」


「それは……そうですが」


 あのー、勝手に話が進んでいくんですが……。


「そんなことしなくても大丈夫ですよ。というか、文字の力で強制的に約束を守らせようとするのは両者の合意に反していると思います」


「うーん、それもそうね。じゃあ、こうしましょう。妹さんが雅人まさとくんなしでも生きていけるようになった時、童子わらこちゃん以外に雅人まさとくんのことを好きになってくれそうな存在が現れない時は童子わらこちゃんと結婚する」


「……分かりました。では、僕たちはこれで。ほら、帰るぞ。童子わらこ


 彼が童子わらこの手を握った時、彼女は頬を真っ赤に染めた。


「うん、またねー」


 童世わらよさんと童寝わらねさんの姿が見えなくなるまで彼は彼女の手を離さなかった。

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