根絶やし
その頃、童世さんは。
「ごほっ! ごほっ! はぁ……はぁ……」
自室で吐血していた。
「力を使いすぎちゃったせいかな?」
童世さんは布団に横になっている。
手を拭こうにも、体が重いせいで起き上がれない。
「はぁ……昔はこんなことなかったのになー」
彼女がそんなことを呟くと、どこからともなく白い蝶が現れた。
「……久しぶり。元気だった?」
「僕は元気だよ。でも、君はかなり辛そうだね」
白い蝶が言葉を発しているのではない。
白い蝶は手の平サイズの白い光の球になっている。
それが彼女と話しているのだ。
フワフワと宙に浮かべているそれは、周囲の空気を浄化していく。
「弱体化していても、鬼姫は鬼よ。だから、文字使いでも勝てる確率は極めて低い」
「でも、君は昔、彼女を追い込んだ。違うかい?」
童世さんは苦笑する。
「それはまあ、そうだけど。そんなのだいぶ前の話よ」
「君にはまだ生きていて欲しいんだ。これからどうなるのか分からないからね」
彼女は血のついた手を見ながら、こう言う。
「私はもう、あの頃のようには戦えないの。だから、そろそろ次の当主を……」
「童子ちゃんにはまだ無理だよ。文字使いとしてだけでなく、精神的に成長してもらう必要があるからね」
彼女は深いため息を吐く。
「そうかもしれないわね……。けど、外部の存在なら可能性がないわけじゃないのよ」
「あの鬼の力を宿した少年はいずれ鬼と化す。そうなった時、彼を倒せるのは文字使いかそれに匹敵する力を持つ存在だけだ」
この世に存在する鬼は全て倒さなければならない。
けれど、そんなことをしたら人間たちが自分たちのことを最強だと思い込んでしまう恐れがある。
だから、鬼という存在を根絶やしにするのは得策じゃない。
「そうなったら、私が雅人くんを殺すわ。童子にそんなことをさせるくらいなら死んだ方がマシよ」
「君らしい答えだね。まあ、とりあえず今はゆっくり休むといいよ」
私のことを利用するだけ利用したいだけのクセに。
「そうね。じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
白い光はいつのまにか消えていた。
どこから入ってきたのか、どうやって出ていったのか。
それを知る術は今のところない。