足りないもの
次の日の昼休み。
僕は妹を部に入れてもいいということを新しく作る部の部員全員に告げた。
「よし、じゃあ、さっそく生徒会の人たちに部の設立を認めてもらいに行こう」
幼馴染の『百々目鬼 羅々』が何の策もなく、屋上から生徒会メンバーがいる教室に向かおうとしたため、僕は彼女の後ろ襟を掴んだ。
「まあ、待てよ。部を作るには部員を五人以上集めた上で生徒会に部の活動内容を伝えないといけないんだから、その場の勢いで説明してもうまくいかないぞ?」
「えー、そこは雅人がどうにかしてくれるんでしょー?」
なぜ、そうなる……。
「あまり僕を頼りにするなよ。僕にもできることとできないことが」
「あー、はいはい、分かった、分かった。つまり、役割分担すればいいんでしょ?」
なんだよ、ちゃんと分かってるじゃないか。
「まあ、そういうことだ。僕一人が演説っぽく部の活動内容を言っても、相手にうまく伝わるとは思えない。だから、分担して『うちの部はこれこれこういうものです』っていうのを伝えないといけないんだよ」
まあ、単に僕の肩だけに重荷を背負わせたくないってだけなんだけどね。
「よし、そうと分かれば、部の紹介文を書こう!!」
『おおー!!』
その後、僕たちは昼休みが終わるまでに部の紹介文をノートにまとめた。
ふむ、だいたい五分くらいの内容になったな。
よし、これであとは、みんなにこの内容を少しずつ覚えてもらうだけだ。
「じゃあ、一人につき、一分くらい……」
「ちょっと待って! なんか足りなくない?」
羅々の発言が場の空気を一変させた。
「足りない? いったい何が足りないんだ?」
「いや、なんというか……私たちの部にしかないものが足りないっていうか、なんていうか」
おいおい、なんだよ、それ。
今はそんなことどうでも……。
いや、待てよ? 確かに、ただ部の紹介をしても今ひとつインパクトが足りない気がするな。
なんというか、こう……僕たちの部にしかないものをアピールしないといけないんじゃないかな。
うーん、なんだろう……。
「……一体感」
「雅人! 今、なんて言った!」
僕の単なる独り言を彼女は聞き逃さなかった。
「いや、一体感って言っただけなんだが」
「それだよ! 雅人! 私たちに足りないものは!」
え? そうなのか?
でも、たしかにこれから僕たちが作ろうとしている部にはチームワーク……一体感というものが必要だ。
そりゃ、ほとんどが出会って間もないのだから、そんなものはない。
しかし、だからこそ、それを他者にアピールすべきではないのだろうか。
「そう……かもしれないな。よし、じゃあ、授業中に少しそういうのを踏まえて書き直しをするから、放課後になったら、ここに集合しよう」
『了解!!』
こうして、新しく部を設立するための準備を少しずつやっていくのであった。




