溶けた
雅人が目を覚ますと、布団の脇で童子が寝息を立てていた。
「おはよう、雅人くん。気分はどう?」
「えっと、普通です。別にどこも悪くありません」
童寝さんはニコッと笑う。
「そっかー。なら、もう大丈夫だね」
「そうとも限りません。僕の体はどんどん鬼になっています。いつ精神が崩壊してもおかしくありません」
童寝さんは童子の頬を人差し指でつつく。
「童子ちゃん。雅人くんが目を覚ましたよ」
「あの、僕の話、聞いてますか?」
童子がゆっくりと目を開ける。
彼女は雅人が目を覚ましたことに気づくと、彼に抱きついた。
「雅人さん!!」
「な、なんだよ、いきなり」
童寝さんはクスクス笑っている。
「童子ちゃんはね、雅人くんが酷い目に遭うのは自分のせいなんじゃないかって自暴自棄になってたんだよ」
「そ、そうなのか? 童子」
童子は童寝を睨みつけると、彼の方に目を向けた。
「はい、そうです」
「まったく、そんなことあるわけないだろ。お前がいなきゃ僕はここにはいないんだ。だから、もう自分を責めるのはやめてくれ」
彼が彼女の頭を優しく撫でると、彼女は彼の胸に顔を埋めた。
「はい……分かり……ました」
「あー、いいなー。私も仲間に入れて欲しいなー」
童寝さんが冗談半分でそんなことを言うと、童子は彼女の腹にドロップキックをした。
「な、なんで……こう、なるの? で、でも、私は諦めないよ。雅人くーん、私の頭も撫でてー」
「えっと、僕は別に構いませんよ。けど、童子が」
「雅人さん! 今は私に集中してください!」
だそうですよ、童寝さん。
そ、そんなー。私、一応、従姉妹なのにー。
「分かった、分かった。よしよし」
「くー! 羨ましいなー! こうなったら……とうっ!!」
童寝さんが布団に潜りこむ。
彼女は布団から顔を出すと、彼にギュッと抱きついた。
「雅人くん! 雅人くん! 私の頭も撫でて! ほら、早く!」
「え? あー、はい、分かりました」
彼が彼女の頭を撫で始めると、彼女は溶けた。
「これ、すごくいいねー。あー、もうダメー。溶けるー」
「え? ちょ、大丈夫ですか?」
童子は彼の頬を人差し指でつつく。
「な、なんだ? 童子。あっ……」
彼女が頬を膨らませていることに気づいた彼は苦笑しながら、彼女の頭を優しく撫で始めた。
「童子は甘えん坊さんだな」
「ち、違います! あなたの手の温もりが心地いいのが悪いんです!」
はいはい。
「な、何ですか? 私の顔に何か付いていますか?」
「いや、何にも」
彼女は疑問符を浮かべていたが、彼はクスクス笑っていた。
「そうやって、いつまでもイチャついていられると思うなよ。けっけっけっけっけっけ!」
その様子を見ていた侵入者は舌舐めずりをした。