実の姉妹じゃない
雅人はまだ目を覚まさない。
童子がじっと彼のことを見つめているのに気づいた童寝さんは彼女の肩に手を置いた。
「童子ちゃん、大丈夫?」
「何がですか?」
素直じゃないなー。
「雅人くんが目を開けてくれないから、不安になってるんでしょ?」
「不安……とは少し違います」
「じゃあ、どうしてそんなに悲しそうな顔をするの?」
童寝さんは彼女の手を握る。
「私のせいで雅人さんは、どんどん人ではなくなっています。だから……」
「自暴自棄になるなとは言わないけど、童子ちゃんは悪くないよ。悪いのは雅人くんの中にいる鬼のせいだよ」
そう、あいつさえいなければ。
「いいえ、私のせいです。私が雅人さんと出会ってしまったせいで、こんなことに……」
「じゃあ、何? 童子ちゃんは雅人くんのこと諦めるの?」
童寝さんは彼女の両肩に手を置くと、自分と目が合うように彼女を移動させた。
「そ、それは……」
「目を逸らしちゃダメだよ! 童子ちゃんは雅人くんとずっと一緒にいたくないの?」
彼女は目を逸らしたまま、静かに涙を流し始める。
「そうしたいという気持ちがないわけではありません。けれど、それで雅人さんが不幸になるのなら、私は……」
「童子ちゃんのバカ! なんで最初から不幸になるって決めつけるの? 童子ちゃんはもっと自分に素直になるべきだよ!」
童子が童寝と目を合わせる。
「私にはそんなことできません。私が素直になったところで状況は変わりません」
「童子ちゃん。それは違うよ。雅人くんが今ここにいられるのは、童子ちゃんがいたおかげなんだよ?」
そんなこと……ないです。
「雅人くんがピンチになった時、童子ちゃんは全力で雅人くんを守ってきた。だから、雅人くんは今ここにいる。違う?」
「間違ってはいませんが、そのピンチは私が彼と出会わなければ起こらなかったかもしれないのですよ?」
そうかな?
「私はそうは思わないよ。だって、童子ちゃんは座敷童子なんだよ? まだ力を使っていないとはいえ、童子ちゃんのせいで不幸になるなんてことあるわけないよ」
「何の根拠もないくせに、よくそんなことが言えますね」
たしかに根拠なんてない。けど。
「私は童子ちゃんの従姉妹だからね! 童子ちゃんのことなら、何でも分かるよ!」
「あなたが知っているのは、昔の私です。実の姉妹でもないくせに、そんなこと言わないでください」
実の姉妹じゃない……か。
そんなのかなり前から分かってたはずなのに、童子ちゃんの口から言われると、やっぱり悲しくなるなー。
「そうだね。私は童子ちゃんの実のお姉ちゃんじゃない。けどね、別にそんなのどうでもいいんだよ。私は童子ちゃんの力になりたい。ただそれだけなんだから」
「姉さん……」
二人はしばらくの間、抱きしめ合っていた。