もう少し肩の力を抜こうか
『蝶蜂院 八代』の部屋の床には刃物で切断されている人間の写真がたくさんあった。
「これはなんだ?」
「この国の秘密を外部に漏らそうとした人たちの写真です。まあ、全て遺影ですが」
「そうか。君は諜報員なんだな」
「はい」
「君はどうして僕たちに素顔を見せたんだ?」
「なんでも話せる友達が欲しかったからです」
「それが理由か?」
「はい」
「そうか。君は寂しかったんだな」
「はい」
「なるほど。じゃあ、もう少し肩の力を抜こうか」
「どういうことですか?」
「スパイのくせに察しが悪いなー。今後、話す時に『です』とか、『ます』とかを使うなってことだよ。ねえ? お義兄ちゃん」
「まあ、そういうことだ」
「なるほど。分かりま……分かった。えっと、これからよろしく」
「うん、よろしく」
「よろしくな、『元』優等生」
「はい……じゃなくて、うん」
彼女が夏樹(僕たちの妹)と握手をしようとした時、ナイフを持った覆面の男が部屋に入ってきた。
「八代目ー! 今すぐ星になれー!!」
八代は手刀でナイフを粉々にすると男の腹に蹴りを入れた。その直後、男は気絶したがタンスまでふっ飛んだ。
「やるな、『元』優等生。今のでこいつの内臓いくつか破裂したぞ」
「当然です。私の友達に手を出そうとしたので」
「そうか。じゃあ、私たちがお前の障害物になったらどうする?」
「一応、自爆します。まあ、それであなたたちを倒せるわけがないので容姿や名前を変えてあなたたちのところに帰ってきます」
「お前は自爆程度では死なないんだな」
「はい。特殊な訓練を受けていますから」
「そうか。ところでこの男はいったい何なんだ?」
「死刑囚です。私を倒せば無罪になります」
「なるほど。ところでお前はお義兄ちゃんのことをどう思っているんだ?」
「うーん……そばにいると安心するのでおそらく嫌いではありません」
「そうか。お前は誰かを好きになったことがないんだな。それと私たちの前では『です』とか『ます』は禁止だ。オンとオフを瞬時に切り替えられないとお前は今週中に死ぬぞ」
「はい……うん、分かった」
「そうだ、それでいい」
「じゃあ、夜になったら天体観測をしようか。あっ、その前に死刑囚を部屋から出さないといけないな」
「それは私がやる。池にいる水神様のごはんだから」
「そっか。じゃあ、頼んだよ」
「うん」




