服従
鬼姫はポツリと呟く。
「ねえ、クソチビ。あたし、これからどうすればいいと思う?」
童世さんはニコニコ笑いながら、こう言う。
「そんなの自分で考えなさいよ」
「それが面倒だから、あんたに相談したんだけど?」
童世さんは真顔でこう言う。
「まあ、とりあえず、雅人くんがピンチになったら助けてあげて。先代より鬼の力に蝕まれてるみたいだから」
「それくらいはしてあげてもいいよ。けど、それだとあたしが雅人から離れられるようになった時、困らない?」
そんな日が来るのかはさておき、護身術くらいは身につけておいてもいいかもしれないわね。
「そうね。なるべく早く鬼の力なしでも戦えるようにしておいた方がいいかもね」
「だよねー。じゃあ、ちょっと試してみようかなー。あたしが雅人の精神を乗っ取ったら、どうなるのかを」
鬼姫がパチンと指を鳴らすと、雅人と鬼姫の意識が入れ替わった。
その直後、彼は彼女の操り人形になってしまった。
「雅人。そいつら全員、あんたの敵よ。だから、殺して」
「はい、鬼姫様」
雅人の瞳から光が消えているのに気づいた三人はその場から離れ、外に出た。
「童子! 童寝! 手を出さないでね!」
「そ、そんな! お母様!!」
童子が実の母親を追いかけようとすると、童寝さんがそれを止めた。
「童子ちゃん! ここは童世さんに任せよう。な?」
「嫌です! 従姉妹のクセに邪魔しないでください!!」
童寝さんは彼女の頬に平手打ちをした。
「そういうのは今、関係ないよ! とにかく、ここは危険だから、一旦離れよう。ね?」
「は、はい、分かりました。ごめんなさい、姉さん。取り乱してしまって」
童寝さんはニコニコ笑う。
「別にいいよ。さぁ、早くここから離れよう」
「はい」
彼女は童寝さんと共にその場から離れた。
「やっぱり鬼は信用できない。何をしでかすか分からないから」
「それに気づいていながら、あたしを完全に殺さなかったのは、どこの誰だったっけ?」
何も変わっていない。
どうして反省しようとしないの?
そうすれば、いつかは肉体だって……。
「雅人。殺して」
「はい」
でも、今はそんなことを考えている場合じゃない。
雅人くんをなんとかしないと完全に鬼になっちゃう。
「雅人くん、先に謝っておくよ。ごめん!」
童世さんは一瞬で姿を消した。
いや、高速で走り始めたのだ。
目にも留まらぬ速さで。
「雅人。地面を殴って」
「はい」
彼が地面を殴ると、振動が地中に響き渡る。
「もらった!」
童世さんの拳が彼の顔面に当たりそうになったが、土でできた壁がそれを止めた。
「なっ! こ、これは!」
「威圧の応用、服従。つまり、あんたの家の土はあたしのものになったってわけ」
童世さんは数歩下がると、大きく息を吸った。
「何? まさか、吐息でどうにかしようとしてるの?」
「うるさい! 黙れ!!」
彼女がそう言うと、土でできた壁が粉々になってしまった。
「なっ! クソチビのクセに生意気!!」
その時の雅人は静かに涙を流していた。