嫌いだけど好き
昼休みになると美山先生は夏樹(僕たちの妹)のクラスに顔を出した。
「夏樹さん、お昼一緒に食べましょう♪」
「……嫌です」
「どうしてですか?」
「先生と一緒に食べても楽しくないからです」
「どうしてそんなことが分かるんですか?」
「私は先生のことが嫌いなんです。嫌いな人と一緒に食べたってちっとも楽しくありません」
「そうですか。では、屋上にいるあなたの大好きな人を私が独占してもいいんですね?」
「そんなのいいわけないでしょう。ちょっと待っててください、お弁当と飲み物出すので」
「はーい」
*
屋上……。
「今日はいい天気ですねー」
「そうですねー」
「……まあ、そうですね」
「夏樹さん、実の兄妹とはいえ学校でそんなに密着してると風紀委員が飛んできますよ」
「飛んできたら太平洋までぶっ飛ばします」
「冗談でもそんなこと言っちゃダメです」
「先生、今のは冗談じゃありませんよ。夏樹は僕や自分に何かしようとするやつには容赦しないので」
「へえ、そうなんですかー。一途なんですね」
「私はお義兄ちゃん以外何もいらない。お義兄ちゃんさえいてくれればこの世界がどうなっても構わない」
「言い切りましたねー。うらやましいですー」
「はい?」
「私には身も心も許せる相手がいないのでうらやましいです。どこかにいい人いませんかねー?」
「自分で探してください」
「冷たいですねー。冷凍庫より冷たいですー」
「……先生」
「はい、何でしょう」
「人間が幸せになる方法知ってますか?」
「色々あると思いますけど、どれですかねー?」
「それはですね……人間をやめることです」
少し雲行きが怪しくなってきたな。
「もし人間をやめたらどうなるんですか?」
「大好きな存在と一生生きられるようになります」
「それはいいですねー」
「じゃあ、人間やめましょう」
「そんなことできるんですか?」
「できますよ。私、女神なので」
「……え?」
「夏樹、そのへんにしておけ」
「どうして? あと少しで先生を人外にできるんだよ?」
「先生にその気がないんだから今はまだダメだ」
「……分かった」
「夏樹さん」
「はい、何でしょう」
「人間をやめるってどんな感じなんですか?」
「ふわふわします」
「ふわふわ?」
「いろんなものから解き放たれるので体が軽くなります」
「へえ、じゃあ、なってみようかなー」
「私がその気になればいつでも先生を人外にできます。人外になりたくなったら私を呼んでください」
「はーい」
「なあ、夏樹。お前もしかして先生のことそんなに嫌いじゃないんじゃないか?」
「え? そうなんですか?」
「違います」
「いや、だって今まで誰かを人外にしようとしたことないだろ?」
「そうだっけ?」
「そうだよ。先生、もしかすると夏樹は先生が人間だからツンツンしてるのかもしれません」
「なるほどー。もしそうならあと少しで夏樹さんと仲良くなれるということですね?」
「はい、そうです」
「私は別に先生が人間だろうと人外だろうとこの世の誰よりも嫌いです」
「私のことが本当に嫌いなら私と同じ場所にいたくないはずです。けれど、あなたはここにいる。ということは」
「嫌いな部分を取り除けば少なからず好感度が上がるということですね」
「そ、そんなことない。私は先生のことなんか全然なんとも思ってない」
「夏樹さん、素直になりましょう。私、人間やめますから」
「……今言ったこと本当?」
「はい」
「嘘だったら異形の化け物にするよ」
「構いません」
「そう。じゃあ、今こっちを見てる害虫や害獣を駆除してくるね。そいつらがいなくならないと先生は人外になる前にそいつらに殺されちゃうから」
「いいんですか? そんなことしたらあなたは」
「僕がサポートするので大丈夫です。先生は反射結界の中にいてください」
「わ、分かりました」
「か、勝てるのか?」
「先生の守護霊、お前に一ついいことを教えてやろう。兄妹なら大抵のことはなんとかなるんだよ」
「そ、そうなのか?」
「お義兄ちゃんがそう言うんだから間違いない」
「そ、そうなのかー」
「お二人とも必ず帰ってきてくださいね」
「はい」
「……私たちの勝利は確定してるので大丈夫です」
「そうですか。じゃあ、昼休みが終わる前に帰ってきてください」
「私、先生のそういうところ嫌いです」
「そう言いながらメラメラ燃えてる夏樹さんのこと私は好きですよ」
「あっ、そう」
「はい、大好きです!」
「夏樹、行くぞ」
「うん、分かった」
「ここからは僕と!」
「私の!」
『共闘だー!!』




