スカーレット・オーシャン
お見合い相手は少し前に会った赤いガラスでできている球体だった。両親にはそれがいいとこのお嬢さんに見えているらしい。
「で? 俺に何か用か?」
「私は体験してみたいのです。子を産み、育て、そして子孫に見守れながら死んでいくというのを」
「その体でできると思ってるのか?」
「飲食はできるのでおそらく可能性です」
「そうか……。でも、なんで俺なんだ?」
「それはあなたのそばに私と似たような存在がいるからです」
「それって私のこと?」
セイローンは俺の影から出ると俺のとなりに座った。
「はい、そうです。あなたのことです」
「そう。じゃあ、まず自己紹介してくれない? あなたは私とお兄さんのこと知ってるみたいだけど、私とお兄さんはあなたのこと全然知らないから」
「分かりました。私の名前はスカーレット・オーシャン。天色星にいた全ての生命を滅ぼした大量殺戮マシンです」
「……えーっと、なんでそんなのが地球にいるんだ?」
「私はいろんな星の生命を滅ぼすために存在しています。ですが、これからもそれを続けていくと最終的に孤独になることに気づきました。なので私は生命を滅ぼすのではなく育てようと思い、あの日あなたに接触したんです」
「そ、そうなのか……」
こいつの話が全部本当かどうかは分からないけど、地球の未来は俺の選択次第で大きく変わるかもしれないってことは分かった。
「そう。それで? あなたはお兄さんのこと好きなの?」
「好きとは何でしょうか?」
「お兄さんのこと愛してる? イチャイチャしたい?」
「おい、セイローン。いきなりそんなこと言われて答えられると思うか?」
「彼のことは好きでも嫌いでもありませんが、私を受け入れてくれそうです。チョロそうです」
「チョロそうってお前な……」
「たしかにお兄さんはちょっと優しくしたらすぐデレデレするけど、あなたがお兄さんのことを愛していないのならこの話はなかったことにするわよ」
「なぜですか? 彼のことを愛していなければ結婚してはいけないのですか?」
「結婚はいつでもできるわ。でも、お兄さんと一生一緒にいられる自信がないのならやめておいた方がいいわ」
「そうですか。では、事実婚をしましょう」
「事実婚? あー、必要書類いらないやつか」
「はい、そうです」
「うーん、まあ、それならいいか。でも、いいのか? 俺なんかで」
「構いません。ということで私たちは今日から夫婦です」
「お、おう。あっ、でも、俺の両親になんて言えばいいんだ? 得体の知れないものと事実婚することになったって言えばいいのか?」
「それは私がなんとかします」
「なんとかってどうするんだよ」
「乙女の秘密です」
「そ、そうか。分かった。えっと、じゃあ、いつ実家から出るか決めるか」
「今日と明日は忙しいので明後日帰りましょう」
「そうか。分かった。じゃあ、この話はこれで終わりだな」
「そうですね、あなた」
「唐突だな……まあ、いいけど。あっ、俺はお前のことなんて呼べばいい?」
「レティと呼んでください」
「そうか。じゃあ、これからよろしくな、レティ」
「こちらこそよろしくお願いします」
「はい、じゃあ、お兄さんは今すぐ自分の部屋に行って」
「え? なんでだ?」
「いいから早く。ほら、行くわよ」
「お、おう」
「レティ、あとのことよろしくね」
「はい。情報操作開始」




