試用期間 前編
毛女郎のけーちゃんがアシスタントになって一ヶ月が経過した頃、セイローンは少しずつ彼女との距離を縮め始めた。
「けーちゃん、消しゴムのカスは床じゃなくてチラシで作ったゴミ箱の中に入れなさい」
「あっ、はい、気をつけます」
「けーちゃん、飲み物何がいい?」
「あー、じゃあ、麦茶で」
「分かったわ。氷は何個入れる?」
「二つで大丈夫です」
「分かったわ」
「セイローン、俺にも同じものを頼む」
「はーい」
セイローンが麦茶を持ってきた。彼女はけーちゃんの作業机の上に麦茶が入っているコップを置く。
「けーちゃん、麦茶持ってきたわよ」
「あっ、ありがとうございます」
「大丈夫? 疲れてない?」
「だ、大丈夫です」
「そう。でも、無理しちゃダメよ」
「は、はい!」
「はい、お兄さんの分」
「サンキュー」
「どう? 進んでる?」
「うーん、なーんかいまいちなんだよなー。なあ、このまま進めてもいいと思うか?」
「そろそろライバルでも出したら?」
「それだ!」
「でも、あんまりヘイト集めないようにしなさいよ」
「なんでだ?」
「読者にそのキャラを殺さないで欲しいって言われる可能性があるからよ」
「なるほどー」
す、すごい。そこまで見据えたアドバイスができる妖怪はなかなかいません。
「けーちゃん、どうしたの? 髪の毛が止まってるわよ?」
「あっ! な、なんでもないです!」
「そう。じゃあ、何かあったら呼んでね」
「は、はい!!」




