帰還
座敷童子の座敷童子と共に彼女の実家に行くことになった雅人。
彼が無事に帰ってこられるかどうかはまだ分からないが、きっと彼なら大丈夫……なはず。
「なあ、童子。お前の実家って、どこにあるんだ?」
「こことは違う次元にあり、こちらの世界とは時間の進み方が違います。なので、今日の夕方には帰れると思います。生きて帰れたらの話ですが……」
そ、そうだなー。生きて帰れるといいなー。
彼女の母親は人間と鬼を恨んでいる。
彼が何の対策もせずに行けば、即退場。
そのため、童子は彼の鬼の力が誰にも探知できないように文字使いの力を使ったのである。
「えっと、それじゃあ、これから座敷童子の里? 村? に行ってくるから、留守番しててくれ」
「分かった……いってらっしゃい。お兄ちゃん」
夏樹(雅人の実の妹)は少し俯きながら、覇気のない声を出した。
「大丈夫だよ。僕はもうほとんど鬼みたいなものなんだから、簡単には死なないよ」
「でも、文字使いには敵わないじゃん」
うっ……そ、それはまあ、そうだけど……。
「あなたのお兄さんはそこそこ強いですし、もしもの時は私があなたのお兄さんを全力で守ります」
「童子ちゃん……」
童子が夏樹を安心させていると、童子の従姉妹である童寝さんがこう言った。
「一応、私も行くつもりだけど、いいかな?」
「どうぞご自由に。ただし、母の前で雅人さんが鬼の力を宿していることを言わないようにしてください。いいですね?」
童寝は苦笑しながら、こう言う。
「わ、分かったよ。まったく、童子ちゃんは私のことをなんだと思ってるの?」
「子どもより子どもな姉です」
直球だな。
「うっ……! ひ、否定できない。ま、まあ、とにかく早く実家に戻ろうよ」
「そうですね。それでは、いってきます」
童子はそう言うと、当然のように僕の手を握った。
「あ、あのー、童子さん」
「何ですか?」
彼女はこちらを見ていない。
「どうしても手を握らないといけないんですか?」
「次元の狭間に行きたいのなら、今すぐ手を離します」
そんなところ、行きたくないに決まってるだろ!
「ごめんなさい。許してください。な……いえ、なんでもないです」
「ちっ……もう少しで言質が取れたのに」
今なんか舌打ちしなかった? したよね?
「なーんてね、冗談ですよ。それでは、参りましょうか」
「あ、ああ」
童子が空中に人差し指で『帰還』という文字を書くと、僕と童寝さんと童子は童子の実家の門の前に転送された。
はぁ……ちゃんと五体満足で帰ってこられるのかな。




