いとこ
朝ごはんを食べ終わると、雅人は買い出しに行った。
「今日はいい天気だなー」
彼が戦地から家に向かって歩いていると、彼に話しかけてきた者がいた。
「あのー、すみません。この辺りに座敷童子が住んでいる家があると聞いたのですが、どこにあるか分かりますか?」
「え? あー、知ってますよ」
彼が振り向くと、そこには誰もいなかった。
「あのー、もう少し下の方を見てください」
「下?」
彼が少し視線を下げると、そこには巫女装束を身に纏ったコケシ……もとい、おかっぱ頭の幼女がいた。
「あー、えーっと、お嬢ちゃんはどこから来たの?」
「わ、私は子どもではありません! こう見えても大人なんです!」
この娘は座敷童子……なのかな?
「そうでしたか。すみません、見た目で判断して」
「だ、大丈夫です、慣れてますから」
本当かな?
ちょっとへこんでるように見えるのだが。
「そ、そんなことより! 私をその家まで案内してくれませんか?」
「えっと、ちなみにその座敷童子の名前はなんというのですか?」
彼女は目をキラキラと輝かせながら、こう言った。
「座敷童子です!」
「なるほど。分かりました。では、ついてきてください」
彼がそう言うと、彼女は小さな足を前に出して、歩き始めた。
*
「ただいまー」
「おかえりー……って、その娘、だあれ?」
夏樹(雅人の実の妹)がそう訊ねると、彼はこう言った。
「えっと、なんか童子に会いたがってる座敷童子の……」
「はじめまして! 座敷童寝だよ!」
やっぱり童はつくんだな。
「うるさいですねー。いったい誰を連れてきたんですか……って、姉さん! どうしてここに!」
「あっ! 童子ちゃんだ! 久しぶりー! 元気だったー?」
童子の姉(?)は草履を脱ぐのと同時に童子の胸にダイブした。
「ふんっ!」
「がはっ!」
童子は実の姉の腹を右拳で殴った。
「あ、相変わらず体重の乗ったいい打撃だねー」
「姉さんこそ、相変わらずタフですね。普通、吐血しますよ?」
な、何なの? この姉妹。
というか、お前……一人っ子じゃなかったのか。
「あー、姉といっても従姉妹の方ですよ。こんなのが実の姉だったら、私は恥ずかして外に出られません」
「ひどーい! 昔はお姉ちゃーん、遊んでー! とか言いながら甘えてたクセに!」
童子は童寝の脇に手を突っ込むと、そのまま持ち上げた。
「それはいつの話ですかー? 私ももう子どもじゃないんです。いい加減、妹離れしてください」
「やだやだ! 私はもっと童子ちゃんと遊びたいよー!」
どっちが年上なのか分からないな。
「嫌です。というか、あなたは何をしに来たのですか?」
「あー、えーっとね、童子ちゃんのお母さん……童世さんからの伝言があってね。一度、実家に帰ってきなさいー、だって」
童子は彼女から手を離すと、彼女に背中を向けた。
「姉さん。実家には戻りませんと、母に伝えてください」
「あっ! ちょっと待ってよ! 童子ちゃん!」
童子は童寝さんが彼女に触れようと近づいた直後、どこかに行ってしまった。




