全部微妙、薄味、平和ボケ……そして不死身の侵略者
俺は妖怪が出てくる漫画の冒頭をいくつか描いた。ジャンルはアクション、日常系、学園もの、異世界もの、ダークファンタジー、推理もの、SF、恋愛、ギャグ、コメディー、歴史、お仕事、スポーツ、超能力などで妖怪セイローンはそれら全てに目を通した。
「うん、全部微妙ね」
「そ、そんなー。どこが微妙なんだよー」
「お兄さんの漫画は遠慮しすぎなのよ」
「どういうことだ?」
「お兄さんは長期連載したいんだよね?」
「まあ、そうだな」
「でも、お兄さんの漫画は正直薄味で別に読んでも読まなくてもいい漫画なのよ」
「う、薄味……」
「はい、そこで落ち込まない」
「で、でも……」
「でも、じゃない。薄味は薄味なの。だから、これから少しずつ味を濃くしていきましょう」
「うーん、本当にそれでいいのかなー。これくらいがちょうどいいと思うんだが」
「不穏な空気をそのままにしておくのは怪獣が出てこない怪獣映画みたいなものよ」
「えー、でも、そういうのが起こらない方が誰も傷つかないからいいじゃないかー」
「それよ」
「え?」
「お兄さんの漫画は平和すぎるのよ。人、物、動物、植物、虫、星、宇宙……そして心。生きているといろんなことがあるはずなのにお兄さんは万物に試練を与えようとしない平和ボケしてる神様なのよ」
「へ、平和ボケ……」
「少しくらい試練を与えないと『漫画を読んだような気がするけど読んでないような気がする。うーん、まあ、いいや。他に面白い漫画あるからそっち読もうーーっと』みたいなことになるわよ」
「うっ……!」
「いちいち傷つかないで」
「だ、だってー」
「だって、じゃない。とにかく万物に試練を与えなさい」
「……神は乗り越えられる試練しか与えない。俺はこれ嘘だと思うんだよ」
「どうしてそう思うの?」
「もしこれが本当なら自業自得だろうとなかろうと天国に行くという選択はしないはずなんだ。つまり神は難易度調整ミスってるんだよ」
「なるほど。それがお兄さんを縛ってるのね」
「え?」
「それは今すぐ捨てなさい。じゃないとこの先もっと酷いことになるわよ」
「やだよ。自分のかわいい子どもたちが苦しんでるところなんて描きたくないよ」
「そう。じゃあ、こうしましょう。不死身の侵略者を出して妖怪たちがそいつらの邪魔をするの」
「そんなのでいいのか?」
「いいのよ。というか、相手は不死身なんだから妖怪じゃないと相手にならないでしょ?」
「たしかに」
「あとそいつらが先に手を出してきた設定にすれば妖怪たちは好きに動けるわ」
「なるほど。正当防衛だからやっつけていいのか」
「ええ、そうよ。まあ、あんまりグロいと読む気が失せるからギャグ漫画のノリでやっつけていいと思うわ」
「そうか。じゃあ、ゆるふわ妖怪と侵略者を戦わせて侵略者が降参するまでの過程を描こう」
「いいと思うわ。さぁ、鉛筆を持って。とりあえず何体かゆるくてかわいらしい妖怪を描きましょう。あっ、侵略者のデザインの資料は私が集めるから気にしなくていいわよ」
「分かった。よおし! 描くぞー!!」




