圏外
あれ? なんか圏外になったぞ。
「おかしいなー。さっきまで普通に電波届いてたのに」
「あなたはこの神社に嫌われているようです。早く帰った方がいいですよ」
「誰だ!」
「通りすがりの高校生です。とにかく早く帰った方がいいですよ」
「うるさい! 黙れ! 俺は一刻も早く出世して誰よりも金を稼いで南国リゾートで遊んで暮らすんだよ!」
「でも、あなたとこの神社の相性は最悪です。早く帰らないとあなたはきっと酷い目に遭いますよ」
「あと少しで夢が叶うかもしれないんだぞ? 帰るわけないだろう!!」
「そうですか。僕の忠告を無視して茨の道を進むんですね。分かりました。じゃあ、僕はこれで」
「おう! 帰れ! 帰れ!」
「はい、帰ります。では、さようなら」
よし! 邪魔者はいなくなったな!
「進めー! 目的地はすぐそこだー!!」
しかし、どれだけ走っても目的地が見えてこない。
「な、なんでだよ……なんでなんだよ……。あと少しで俺の夢が叶うのにどうして同じような景色しか見えないんだよ……」
唐突に小石の雨が降り始める。
「な、なんだよ! これ! 誰かのいたずらか!」
次はあられだ。
「冷たい! なんで晴れてるのにあられが降ってくるんだよ!!」
次は桜吹雪だ。
「桜はもう散ってるだろ! うわっ! 口の中に入った! ぺっ! ぺっ!」
次は猛吹雪だ。
「さ、寒い! おーい! まだ冬じゃないぞー!」
次は猛暑だ。
「あ、暑い……。くそ! ここは地獄か何かなのか?」
「あったりー! 地獄へようこそ! それじゃあ、閻魔大王様のところまで案内するねー!」
「はっ? お前、誰だ? 地獄へようこそって、ここは有名な神社がある場所の近くだろ?」
「違うよ、ここは地獄だよ」
「ふ、ふざけるな! 俺はまだ死んでないぞ! なんで地獄なんかにいるんだよ!」
「んー? あー、そっか。おじさん、神社の忠告無視したでしょ」
「え? あー、そういえば、いきなり圏外になったな」
「それもだけど、誰かに止められなかった?」
「あー、なんか通りすがりの高校生に止められたな。早く帰れって言ってたような気がする」
「はぁ……おじさんはバカだねー。多分もう戻れないよ」
「はぁ? なんでだよ」
「神社がね、おじさんが元の世界に帰れないようにしてるからだよ」
「そんなこと神社にできるのか?」
「できるよ。まあ、そういうことだから早く閻魔大王様のところに行こう」
「やなこった! 俺は夢を叶えるんだ!」
「ごめん。それ、無理」
「はぁ!? なんでだよ!!」
「おじさんの体少し透けてるでしょ? 死者はみんなそんな感じなんだよ。だから、おじさんはもう帰れない。帰れたとしてもおじさんは死んでることになってるからおじさんの夢は叶えられない」
「そ、そんな……う、嘘だ……俺は……俺は認めないぞ。こんなの夢だ! 夢に決まってる!!」
「うん、夢だよ」
「はっ! こ、ここは……」
「僕とおじさんが出会った場所だよ」
「そ、そうか……」
「僕はね、少しだけ力を使っておじさんが僕の忠告を聞かなかった場合の未来を見せたんだ。で? どうする? 今すぐ家に帰る? それとも進む?」
「……帰らせてくれ。死んだら金を稼げないから」
「そう。じゃあ、まっすぐ家に帰ってね」
「ああ……」
夢は良くも悪くも人を変えてしまう。今回みたいに少し先の未来を見れたら泣く人数は多分減る。でも、普通の人間にそんなことはできない。では、どうすればいいのか。答えは簡単、予想すればいいんだ。こっちに進めばこんな結果になるだろうとだいたいでいいから予想する。まあ、それが分かっていても自ら破滅の道に進んでしまう人が少なからずいるんだけどね。




