大丈夫なの?
それからしばらく経って。
「ただいまー……って、もうみんな寝てるよな」
雅人がバイトから戻ってくると、白猫がやってきた。
「おかえり! ダーリン!」
「ああ、ただいま。というか、まだ寝てなかったのか?」
しゃべる白猫は家出中である。
「猫は夜行性だからね。それにしても、ダーリンはすごいわね」
「え? 何がだ?」
彼は洗面所に向かいながら、そう答えた。
「だって、高校に行きながら、バイトもして、家事もして、私やダーリンの妹の面倒も見てくれてるじゃない」
「そうかな? 別に普通だと思うけど」
普通……なの?
「ダーリンは頑張りすぎよ。少しは休まないと」
「休む……か。一日中、ゴロゴロしていたいっていう願望はあるんだけど、それをすると大変なことになるんだよ。全部、童子に任せるわけにもいかないし」
その直後、彼の背後に何の前触れもなく、座敷童子が現れた。
「それはどういう意味ですか? 私では力不足ということですか?」
「そうじゃないよ。ただ単に僕のポジションを奪われるのが嫌なだけだよ」
頑固ですね、たまには私を頼ってくれてもいいのに。
「そうですか。しかし、たまには休息も必要です。明日は私と夏樹さんで家事をやりますから、あなたはのんびりしていてください」
「いや、だから、そういうことはしなくていいって」
あっ、なんか嫌な予感がする。
「少しは私たちを頼ってください!」
「うるさいなー。やらなくていいって言ってるんだから、余計なことはするなよ」
こ、これはマズイ……。
「……分かりました。もういいです。おやすみなさい」
「おう、おやすみー」
あ、あのー、ダーリン。今のはちょっとマズイんじゃ……。
「ね、ねえ、ダーリン。大丈夫なの? あんなこと言って」
「大丈夫も何も僕は別に困ってないんだ。だから、いいんだよ。あれで」
う、うーん、そういうもの……なのかな?
彼は特に気にすることなく、その日は眠りについた。
しかし、白猫はそうではなかった。
彼女は家のどこかにいる座敷童子のところに向かおうと決心した。
このままだと何か取り返しのつかないことになってしまいそうだと思ったからだ。