幻の果実がやってきた
食べるとどんな病気も完治する幻の果実。それがもうすぐこの町にやってくるらしい。
「来た! 総員、幻の果実を撃ち落とせー!!」
『わー!!』
幻の果実はたしかにこの世に存在しているが私利私欲のために動いている人には一生捕獲できない。それは一定のペースで飛びながら何かを探している。
「あっ、幻の果実だ。珍しいから写真撮っておこう。あれ? どこ行った?」
「じー」
「なんだ、降りてきたのか」
「こっちに逃げたぞー!」
「早くここから離れた方がいいぞ」
「じー」
「はぁ……しょうがないなー。学校に着くまで守ってやるよ」
「やったー」
「……おい! 小僧! こっちに空飛ぶリンゴみたいなのが来なかったか?」
「見てないです」
「そうか。もし見つけたら俺の仲間に言えよ!」
「はい」
「クスクス……バーカ」
「おい、カバンから顔を出すな、見つかるぞ」
「はーい」
学校に着くと幻の果実は僕のカバンの中からゆっくり顔を出した。
「着いたぞ。さぁ、早くカバンから出るんだ」
「やだ」
「はぁ?」
「あなたのそばにいれば安全。だから私、今日一日あなたのそばにいる」
「そうか。じゃあ、夕方になるまでおとなしくしててくれ」
「分かった」
「お兄ちゃーん! 誰と話してるのー?」
「なんでこんなところに小学生がいるの?」
「あぁん? なんだ? こいつ。普通のリンゴじゃないな」
「夏樹、これは幻の果実だ」
「え? そうなの? タンコロリンの親戚じゃないの?」
「あんなのと一緒にしないで! このまな板!!」
「胸がどこにあるのか分からないあんたよりマシよ」
「あるもん! 胸ちゃんとあるもん!」
「えー、どこにあるのー? 私、分かんなーい」
「夏樹、そのへんにしておけ」
「はーい。ごめんね、意地悪して」
「……仕方ない、許してあげる」
「そう。ありがとう。ねえ、お兄ちゃん。私もこいつのこと守った方がいい?」
「そうしてもらえると助かる」
「分かった。じゃあ、そうするね」
「頼んでない」
「まあまあ、そう言わずに……ね?」
「まな板に私を守れるの?」
「大丈夫。私、こう見えてそこそこ強いんだから」
「弱そう、すごく弱そう、とても不安」
「ぶん殴るわよ?」
「ご、ごめんなさい、よろしくお願いします」
「よろしい。お兄ちゃーん! おんぶしてー!」
「昼休みになったらしてやるよ」
「やったー! ありがとう! お兄ちゃん!!」
「……いいなー。私も甘えたい」
「ん? お前、今なんか言ったか?」
「なんでもない……」
「そうか」
なんだか胸が苦しい……。気のせい、かな?




