あいさつ……だと?
僕は夏樹(僕たちの妹)のにらみつけるで失神したニーズヘッグをオーディンの庭に転送した。
「はい、おしまい」
「おしまーい!」
「そ、そんな! あの木の天敵が五秒くらいで倒すなんて!!」
「す、すごいですー!」
「す、すごすぎる」
姫様とわたあめさんも神樹様と同じくらい驚いている。
「神樹様ー、や・く・そ・く覚えてるよねー?」
「うっ……! そ、それは……」
「約束はちゃんと守らないとダメだよー。ほら、早く私とお兄ちゃんが結婚できるようにしてよ」
「う……うう……で、できません!」
「はぁ?」
「私にはその権限がないのでできません!」
「そう……。じゃあ、いいよ。私とお兄ちゃんでなんとかするから」
「な、なんとかって?」
「私が神になれば私の髪の効果をピンポイントで永続化できるようになると思うんだよねー。だからそれを使って法律を無効にしまーす」
「そ、そんなことしたら大変なことになりますよ!」
「じゃあ、ミラーワールドでこっそり結婚するのは?」
「え? あー、それならまあ、大丈夫ですけど」
「そう。じゃあ、どっちもできるように頑張るね」
「え? 本気、なんですか?」
「私がお兄ちゃん以外の誰かと結婚すると思う?」
「いえ、その可能性はゼロです」
「でしょー? だから、私はなんとかしてその夢を実現させたいの! 分かる?」
「はい、分かります」
「よし! じゃあ、帰ろう!!」
「夏樹、もう少しだけこの世界にいてもいいか?」
「え? あー、うん、いいよ」
「ありがとう。夏樹。神樹様」
「何ですか? ま、まさか! あなたも私に無茶な願いを叶えさせるつもりですか!?」
「違うよ」
「じゃあ、何なんですか?」
「わたあめさんの本名を教えてくれ」
「え? あー、いいですよ」
「ダメです!!」
「わ、わたあめ……急にどうしたんですか?」
「姫様は先にお城に戻っていてください」
「わたあめ、顔が怖いですよ? 何か悩みごとがあるなら私に話してください」
はぁ……仕方ない。少しずつ聞くか。
「神樹様、教えてくれ。ヒーリング家に生まれた子どもは何人いるんだ?」
「二人です」
「え? それは本当ですか?」
「姫様! 今のは嘘です!!」
「その子どもはどちらも女の子か?」
「はい、そうです」
「え?」
「姫様! 早くお城に戻りましょう!!」
「そうか。じゃあ、姫様の名前を教えてくれ」
「コンフェイト・ヒーリングです」
「そうか。かわいい名前だな」
「わ、私の名前を雅人様に知られてしまいましたー。でも、嬉しいです!」
「姫様! 喜んでいる場合ではありません! 早くお城に戻りましょう!!」
「神樹様、姫様は次女か?」
「はい、そうです」
「え? そうなんですか?」
「姫様! 神樹様の発言は全てでたらめです! 耳を貸さないでください!!」
「じゃあ、長女はどこにいるんだ?」
「そこにいますよ」
「え? ……わたあめが長女?」
「や、やめて……」
「神樹様、これが最後の質問だ。わたあめの本名を教えてくれ」
「わたあめの本名は」
「やめて! 言わないで! お願いだから!」
「コットンキャンディー・ヒーリングです」
「ヒーリング……。ということはわたあめは私の姉、ということになりますね」
「姫様……私はあなたの姉などではありません。私はただのガイドです」
「そうですか。では、なぜあなたの首にヒーリング家の者しか付けられないネックレスがあるのですか?」
「こ、これはレプリカです!」
「それは複製した瞬間、複製した者が牢屋に行くようになっているのでそれはありえません」
「も、もらったんです。小さい頃に」
「それはヒーリング家以外の者が付けると警報が鳴るようになっているのでそれもありえません」
「そ、それじゃあ……」
「わたあめ……いえ、お姉様。もう隠しごとはしなくていいです」
「……え?」
「私には姉がいる。その話は私が幼い頃、祖母がこっそり教えてくれました。それがわたあめだと気づいたのは私があなたと出会ってしばらく経った頃でした」
「そうでしたか……。ということは姫様は私の黒い噂も私の正体も全て知った上でわたあめとして私と接していたのですね」
「はい、そうです」
「そうですか。姫様、私はこれからどうすれば」
私はお姉様を優しく抱きしめた。
「お姉様、これからはお城で一緒に暮らしましょう」
「姫様……」
「姫様ではなくコンフェイトと呼んでください」
「こ、コンフェイト……。私を受け入れてくれるんですか?」
「もちろんです。私はあなたの全てを受け入れます。なのでこれからは共にこの世界をよりよいものにしていきましょう」
「はい! 喜んで……!!」
「まぶしいねー。じゃあ、邪魔者はそろそろ帰りますか」
「雅人様、お待ちください」
「どうしたんだ? 姫様?」
「少し屈んでください」
「分かった。こうかな?」
「……チュ♡」
「お、お前……今、お兄ちゃんに何した?」
「夏樹様、ほっぺにキスしたくらいで動揺しないでください。それと今のはただのあいさつですよ」
「あいさつ……だと?」
「はい、そうです。でも、いつかあなたのハートを射止めてみせます」
「そうか」
「はい!!」
「わたあめさん」
「な、何ですか?」
「今度僕たちがこの世界に来た時、またガイドしてくれますか?」
「はい! もちろんです!」
「神樹様」
「な、何でしょう?」
「何かあったら僕を呼んでくれ」
「は、はい! 呼びます! そんなのなくても寂しくなったら呼びます!」
「はははは、うん、別に構わないよ」
「本当ですか!?」
「ああ、本当だよ」
「やったー! すごく頼りになる味方ができたー!」
「大袈裟だなー。えっと……みんな、ありがとう。じゃあ、またな」
『はい!』
「お兄ちゃん! 待って! 置いてかないで! あっ、えっと、その……またね」
『はい!!』
うん、それでいい。いやあ、今回もどうにかなってよかったよかったー。




